全部好き!
何となく今日は映画を観たい。
そんな日にどうやって映画を選ぶ?
好きなジャンル、好きな俳優さんが出ている、ポスターが格好いい。
私は、監督さんに惹かれて観ること多いかも。
この作品に関しては、完全に監督さん目当て。そして役者さんも。
吉田監督の作品を見始めたのは『ばしゃ馬さんとビッグマウス』からですが、その後の作品どれも、かなり好き。
『ヒメアノ~ル』、『犬猿』につづく、今作『愛しのアイリーン』。
見てはいけないものを見てしまっているのに、片時も目を離せない。
押し寄せる激しい展開に、それを見ているだけのはずの私の心がひどく抉られる。
でも、最後に残るのは、シンプルに“愛”。
それを演じるのが安田顕さん!最高だ!
(母親役の木野花さんも最高だ!)
安田顕にキュン!
――『ばしゃ馬さん…』の時は、麻生久美子さんと安田章大さんに、『銀の匙…』は中島健人さんと広瀬アリスさんにインタビューさせてもらって、役者さんにはお話を伺ったんですけど、ようやく監督にお会いできました。
吉田監督:良かったです!嬉しいです!
――以前の作品と最近の作品では、バイオレンスの要素が多かったりと、だいぶテイストが違うのですが、何かご自分の中で変化があったのでしょうか?
吉田監督:そんなこともないんだけど、飽きっぽいんだよね、性格が。女子高校生が好きで、デビュー作の頃から撮り尽くして、また『銀の匙…』とか録っちゃったから、もう高校生はいいなと。もともと自主映画の時からバイオレンスは得意だったので、割と最近はそういうものをやって、手広く、“俺は色々できるよ”というのをお見せして。
――(笑)。バイオレンスが得意ということですが、得意・不得意はどうやってわかるのですか?
吉田監督:えっとね。『犬猿』のときのメイキングを撮ってくれた男の子が格闘家の人なの。たまたまね。それで、『犬猿』のアクションシーンを俺がつけているのを見て、「吉田さんってアクションが得意なんじゃなくて、暴力が得意なんですね。」って言われて。あっそうだ、俺が撮っているはアクションじゃなくてただの暴力だと思って。いつもアクション部がくるんだけど、そのアクション部につけてもらったものをやらないの。「なるほど、わかりました。じゃあ今のを忘れて、次は本気で俺が殺しに行くから頑張って止めてみて。」と。それをすると、人間こうなるよねという、実際に起こりうることしかやりたくないの。殴って、こうやって、こうなって、なんてならないから。
――リアルを撮っているということですね?
吉田監督:うん、リアル。それを淡々と撮っている。
――今回もそういう撮り方ですか?
吉田監督:今回もちょくちょく。あとは精神的に追い詰めるのはいつものことで。俺の物語って全部、登場人物が何か願望を持っているんだけど、いじめにいじめられて、辛酸舐めまくって、最後あめ玉一個もらって終わるっていう映画なんですよ。
――ああ!わかります!
吉田監督:だから、どうやって主人公がいじめられるかみたいな感覚で、どう苦しんで、でも最後何に希望を見つけるかみたいな。超ドSな感じで、最後に優しく抱擁する。
――だから監督の作品が好きなのかもしれないです。今回の『愛しのアイリーン』を観て、脳裏に焼きついてしまって夜眠れなかったんですけど、嫌な感情ではないんですよね。
吉田監督:最終的には愛を描いているつもりではあるんですよ。ただその愛を手に入れるまでに、やっぱり本当に絶望を一回経験しないと。絶望の先にあるのが愛というか。HAPPYな中で愛してる愛してると言っても愛だなぁとはなかなか思わない。やっぱり一回絶望を味あわせたいんだよな。結構今回は皆が皆、地獄にはまっていく。
――安田顕さんは色々な役をやられているけど、今回は本当にしょぼくれた感じが上手だなと思いました。
吉田監督:そうですよね。幅広いですよね。安田さんは福田雄一監督の作品とかでもコメディセンスがあるのはわかっているけど、意外とピュアさとか泣くとか怒り、いらだちみたいなものをどれくらい物をもっている人なのかわかっていなかったけど、すごい幅が広いなと思いました。
――安田さんが演じた主人公・岩男は、原作とは全然違うんですよね?
吉田監督:(原作では)プロレスラーみたいな男です。でも見た目が力持ちというのは、不器用さを表しているので、体が大きくないと話が通じないということではないんですよ。どちらかというと、不器用さだったり歪み方だったり、そういうものを持っている人のほうが岩男っぽいだろうなと思って。だから魂だけ感じると安田さんってやっぱりいいなと。
――撮影する中で、安田さんっていいなと思ったシーンはありますか?
吉田監督:もちろんいっぱいあるけど、キスシーンで、安田さんが「愛してっど」と言うとき、“本当に優しいんだ、この人“と、ビックリしちゃたんですよ。そのシーンで、ナッツ(アイリーン)が岩男に、「おめ、綺麗だな」と言われるから、ナッツの方を綺麗な背景にしたの。で、安田さんは受ける方だから暗くてもいいだろうと思って撮影したんだけど、ナッツはやっぱり綺麗に撮れたんですよ。ネオンがキラキラして。で、岩男の方を向けて「愛してっど」というのを撮ったら、そっちで泣いちゃって。別にたいして画が綺麗じゃないんだけど。何だろう、その素朴さと優しさと。それまで色んなことを経験してきて、やっと今ちょっとした幸せを見つけた人にしか見えなかったの。安田さんがそういう人生を送ってきたかのように見えて、は!となっちゃって。
――わかります。今まで乱暴なこともしてきたけど、本当はこういう人だったんだとわかるシーンでした。
吉田監督:そうそう。だからナッツもそのシーンを安田さんと演じていて、本当に自分からキスしたくなったって。そのときキュン!ときたって。お芝居の中だけど目の前でそれをやられると!
次作はシュウマイ?!
――はじめにも言ったんですけど、監督はいつも何を考えていたらこんなに面白い作品を撮れるのだろうと思っているのですが。
吉田監督:でもね、基本的にはいつも同じことをやっているんですよ。話は違えど、芝居のトーンも本の書き方も全部だいたい同じことを繰り返してる。
――そうですかね。『犬猿』もすごく好きなんですけど、私も姉妹なので、姉妹の関係をすごく上手に描かれるなと思いました。
吉田監督:物語を作るときに、今はどういう“感情”を撮りたいか、というのをベースに作っているかな。物語や設定重視ではあまり撮っていない。だから『犬猿』だと、“嫉妬”とか“ねたみ・そねみ”みたいなものを掘り下げようと。そこから始めると、兄弟、男同士でやろうと。でもそれではお金が集まらないから、姉妹も足しちゃおうと。
――そうすると、『愛しのアイリーン』には原作がありますけど、どのように?
吉田監督:これが一番好きな漫画で、バイブルなので、俺の教科書になってる。いままでが『愛しのアイリーン』の模倣をしていたに近い。だから、やっと本物を撮ったので、もう終わり(笑)。
――えー?!
吉田監督:(笑)。「『愛しのアイリーン』までの吉田さんが好きでした。」と言われるようになってみたい。
――ダメですよ(笑)!じゃあ、次の展開は違うものになるのですか?
吉田監督:違うんじゃない?シュウマイを作る物語とか、“どうした?!”というものばかり作るんじゃない?ガーデニングについて3時間の映画をつくりました、みたいな、超ヤバい人になって帰ってくるかも(笑)。
――では、第一章が終わったような感じですか?
吉田監督:はい。第一章が終わりましたね。
――これを撮り終えたことで逆に幅が広がっているということでしょうか?
吉田監督:今までの自分のやってることのテーマのひとつが悲劇と喜劇が共存しているもの。人によっては笑ってるけど、人によっては泣いているような、そういうものが好きだったりするので。人生ってそういうものでしょ?居酒屋だって別れ話をしている後ろで誕生会をしてたりするわけじゃん。どこを切り取るか。この世界だけがすべてじゃないというか。そういうものをいつもやってたから、飽きはじめてる。
――あ、飽きっぽいから。今後の展開も期待しつつ、私はこれまでのテイストも好きなので続けて欲しいですけど。
吉田監督:またどうせ撮るんだろうけどね。
――原作の新井英樹さんにも褒めていただいて、それは嬉しいですか?
吉田監督:嬉しいですね。俺の中で神様が二人いて、映画の神様・塚本晋也、作家の神様・新井英樹。その二人が神様なのに二人と仕事してるから。あとタレントの神様・ジャッキー・チェンと会えていないだけなんです。映画好きはジャッキーから始まってるんだもん。ジャッキーがいなかったら今の俺はいないの。
――ジャッキー、会いたいですね!
吉田監督:ね、会いたいなぁ。下手したら映画祭とかで。ウーディネ・ファーイースト映画祭に行ったときに、前の年はジャッキーが来たって!でも今年は何でサモ・ハン(サモ・ハン・キンポー)なの?!って。いや、サモ・ハンも嬉しいんだけど。
――惜しいですね(笑)!
吉田監督:惜しいんだよなぁ。
心して劇場へ!
監督が仰ったように、この作品の登場人物たちは、一歩一歩地獄へ足を踏み入れていく。
安田さん演じるの岩男の母親を演じるのは、木野花さん。
これまで“上品なおばさん役”がぴったりだった木野さんが、息子を溺愛するあまり常軌を逸した行動に出る狂気の母親を演じている。
テイクを重ねるごとに良くなったという木野さんのおぞましい演技にも注目です!
そして、新潟県長岡市で撮影された今作。
豪雪地帯でのアイリーンの冬服がなんとも味があります。(シーンはかなりシリアスなのに)
半纏、耳当て、手袋。
監督曰く、ちょっととんちんかんな小道具の女の子が用意したそう。
どこで探してきたの?という微妙すぎる小物たち。
吉田監督はそのセンスにハマったそうですが、他の現場では独特すぎて怒られちゃうそうです…。
半端な気持ちで観に行ったら痛い目をみる作品。
でもこのラストを感じるためにぜひ観てほしい、傑作です。