vol.33『海を駆ける』ディーン・フジオカさん、深田晃司監督

海を駆ける 【過去記事】シネマクエスト「神取恭子のシネマコラム」

海を駆ける

「すこし・ふしぎ」

『淵に立つ』(’16)で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の審査員賞を受賞した深田晃司監督。

7年の歳月を費やし、オリジナル脚本、そして主演にディーン・フジオカさんを迎えて挑んだ意欲作『海を駆ける』が公開になりました。

映画の舞台は、2004年のスマトラ島沖大震災で津波による壊滅的な被害を受けたバンダ・アチェ。

2011年12月、深田監督は津波の傷跡がそのまま残る現地に赴き、日本とはあまりに違う津波の受け入れ方に価値観を揺さぶられたといいます。

例えば、津波の跡地が観光地のようになっていて、“津波饅頭”のようなものが売られていたり。津波の記憶を残しつつ逞しく復興しているそう。

そして、二階堂ふみさん主演の『ほとりの朔子』(’13)を経て、今作は動き出しました。(『海を駆ける』は『ほとりの朔子』の発展系と考えているそう。気になる方はぜひこちらもご覧ください。)

“心揺さぶる美しきファンタジー”とのキャッチコピーですが監督は、

「ファンタジーというよりは、恋愛プラスちょっとファンタジーみたいな。“すこし・ふしぎ”という藤子・F・不二雄のSFに近いようなイメージではあります。」

「海から来た男」

インドネシア、バンダ・アチェの海岸で謎の男(ディーン・フジオカ)が倒れている。

日本からアチェに移住し、NPO法人で災害復興の仕事をしながら息子タカシ(太賀)と暮らす貴子(鶴田真由)。

タカシの同級生のクリス(アディパティ・ドルケン)、その幼馴染でジャーナリスト志望のイルマ(セカール・サリ)が貴子の家で取材をしている最中、その正体不明の日本人らしき男が発見されたと連絡が入る。

まもなく日本からやって来る親戚のサチコ(阿部純子)の出迎えをタカシに任せ、貴子は男の身元確認に急ぐ。

記憶喪失ではないかと診断された男は、結局しばらく貴子が預かることになり、海で発見されたことから、インドネシア語で「海」を意味するラウと名付けられる。

ほかには確かな手掛かりもなく、貴子とイルマをはじめ、タカシやクリス、サチコもラウの身元捜しに奔走することになる。

片言の日本語やインドネシア語は話せるようだが、いつもただ静かに微笑んでいるだけのラウ。その周りでは少しずつ不可思議な現象が起こり始めていた…。

「トトロ?河童?」

公開日の5月26日(土)、名古屋のミッドランドスクエアシネマ2で初日舞台挨拶が行われ、主演のディーン・フジオカさん、深田監督が登壇。

冒頭は、お二人ともインドネシア語でご挨拶。さすがディーンさんは流暢なインドネシア語!

(私が分かったのは、監督の「テレマカシー=ありがとう」のみでした。)

バンダ・アチェで約1ヶ月間、オールロケで撮影されたということで、現地のお話から。

海を駆ける

ディーンさん:最初このお話をいただいたときに、アチェで撮影すると聞いて、インドネシアの中でも一番左なんですね。インドに近い側ですね。ジャカルタから3時間半くらいかかるのかな。アチェというと少し怖いイメージがあったんですよ、ジャカルタとは全く違う文化があるので。家族や友達に「行ったことある?」聞いても、外国よりも外国みたいな場所だという話だったので、そこで撮影するというのが僕には凶器としか思えなかったんですよね。実際行ってみたらアチェには映画館もないんですよ。そこに機材を持ち込んで撮影をするというのは、深田組のチームワークは素晴らしいなと思いました。

実際行ってみたら、全然平気でしたね。皆優しくて。僕はあまりお酒は飲まないんですけど、お酒も普通にあって。

海を駆ける

深田監督:アチェは特別独立自治区のようになっていて、お酒は基本的に売っていないということになっているんです。ジャカルタから行くインドネシア人のスタッフはそんなに敬虔ではないイスラ教徒が多くて…

ディーンさん:不良が多かったんですよ(笑)

深田監督:そう不良スタッフが多かったので(笑)、みんなアチェにはお酒がないらしいぞということで、機材をジャカルタからスマトラ島を縦断して5日間かけて車で陸送する途中で、お酒もたくさん積み込んで行ったんです(笑)。でも行ってみたら、メニューにはないけど裏メニューでビンタンというインドネシアのビールがあって、注文すれば出てきましたね(笑)。

ディーンさん:例えば、アザーン(イスラムのお祈りが始まる合図)が鳴って休憩ってなった時は、不良スタッフは歌ったり踊ったりしてるんですけど、真面目なイスラム教徒の方はお着替えして絨毯ひいてお祈りしていましたね。

深田監督:1日5回強制的に休まなくちゃいけないというのは、慣れると気持ちいいですね。メリハリがあると思うんです。例えば10時と3時におやつの時間があってその時間になるとスタッフがおやつを持ってくるんですよ。

ディーンさん:美味しいんですよね~。ココナッツ、コーヒーと一緒に。全部グルテンフリーでしたよ。米粉とココナッツだったから。あとマンゴーとか果物がたくさん出てきて。アボカドジュース美味しかったですよね。

ー 脚本をよんで

ディーンさん:脚本を読んだときに、とても清々しい画が見えて、自分の中で考えさせらる風景が見えたっていうんでしょうかね。特にこの映画っていい意味でですけど、あまりフレンドリーじゃないじゃないですか。ヒーローが勝って悪役がいて悪いことやっちゃダメだっていう、そういう映画ではないですよね。だから、すごく不思議な世界に入っていく触媒になって、この作品を通して人生観だったり、死生観、そういうものが自分も含めて、深田ワールドに刺激されて新しい気づきだったり、新しい会話が生まれる作品なんじゃないかなって思いましたね。

ラウは不思議ちゃんなんですよ。これは人間なのか何なのか?って最初に監督に聞きましたよね?トトロみたいな感じ?風の又三郎?

深田監督:風の又三郎とか河童とか言ったかもしれない。

ディーンさん:そうだ河童ですね!

深田監督:皆さん、自由ですよ。監督の言うことがすべて正解だと思わないでくださいね。監督も作品の比較的近くにいる他人だと自分は思っているので。ラウは自然が服を着て、たまたま人間の形をして散歩しに来ただけ、のような気まぐれなイメージと説明したんじゃないかな。

ディーンさん:そうですよね、植物的なイメージもあるような。

深田監督:いつも何となく側にいるんだけど仲間たちの人間関係にコミットしないというような。

ディーンさん:マリオか何かにそういうキャラクターいましたよね?観葉植物のような形をした。

ー お客さん「パックンフラワー」

ディーンさん:パックンフラワー!でもあれは肉食か。

深田監督:あれは触ったら死んじゃいますよ。あ、でもラウも油断して近づくと…。

ディーンさん:ラウって面白くて…(ネタバレになるので割愛)、全体を通してみると、善とか悪とか感情がそもそもない、モラルとかそういうものを超越した宇宙の真理みたいな。

深田監督:そういう目的とか善悪というのは人間社会が生み出したもので、人間社会を滞りなく進めていくために作り出した概念なので、ラウはそういうこととは無縁でそこにいて気まぐれに色んなことをしていく存在という風になればいいなと思っていました。

ー ラウが蝶を追いかけるシーンについて

深田監督:あの場面は最初の頃に撮影したんですけど、鶴田真由さんも「本当に綺麗なお顔」と言っていましたが、あの一連のシーンの撮影をして、本当にディーンさんにお願いして良かったなと思いましたね。あんなに無邪気な表情で蝶を追える人っているんだって(笑)。

ディーンさん:エアー蝶を(笑)。

深田監督:そう、実は蝶は飛んでなくて後で作ったんですけど、あれは本当に大正解だと思いましたね。

ディーンさん:ありがとうございます。

深田監督:こちらこそ、ありがとうございます。

ー インドネシア、フランス、中国、台湾での上映が予定されています。それも含めて、最後にメッセージを

ディーンさん:むしろ皆さんがどう思ったかを聞きたいっていう感じなんですよね。それを表現していただくことで、一人でも多くの人にこの作品のことを知ってもらえると思いまして。願わくば「#海を駆けてきた」、これよく間違えるんですけど「#海を駆ける」ではないので、間違えないように、皆さんのご意見ご感想をぜひネット上で表現していただけると、それがバタフライエフェクトのようになってフランス、中国、台湾、インドネシアに広がっていくと思うので。いま見終わってきっと思うことがたくさんあると思うので、現実に帰るリハビリだと思って、自分感想を書き留めて、明日も頑張ってください!

「3度目のタカシ」

深田監督には単独インタビューで、他の出演者の皆さんについても伺いました。

タカシを演じた太賀さんは、『ほとりの朔子』『淵に立つ』に続いて3度目の出演。しかもすべて役名は“たかし”!

もともと監督が初めて作った自主映画の小学生の役名が“たかし”だったそうで、今はそれを太賀さんが襲名しているそう。ちなみに“たかし”という名前に全く思い入れはないそうです(笑)。

そういうこだわっているようでこだわらないスタンス、センスが深田ワールドだなと思いました。

今作では途中まで太賀さんだと気付かないほど、インドネシアの人や風景に馴染んでいます。

監督曰く、「インドネシアの人も驚くほど、ちょっとした仕草や表情がすごくインドネシア人ぽい。それは演出の枠を越えている、太賀くんの役者としてのセンスですよね。周りの環境や共演者と順応するスピードがものすごく早い。」

インドネシアの食事作法で手で食事をするシーンもとても自然。ブラインドタッチで食べることを目標に練習したそう。

また、インドネシア語について、タカシと鶴田真由さん演じる母親の貴子では少し違うそう。

貴子は、20代の時にインドネシアに移住した日本人で、日本語訛りのインドネシア語。

タカシは、インドネシアで産まれた日系インドネシア人。ネイティブでないといけない。

二人のインドネシアにいる歴史も考えての演出で、インドネシア語の先生にもそれを目標にお願いし、太賀さんと鶴田さんは2ヶ月間特訓したそうです。

この親子や他のキャラクターたちとディーンさん演じるラウがどのように関わっていくのか。

そして、ラストに皆さんの心にどんなものが残るのか。

私は、この作品に触れて、少し世の中を俯瞰で見ることができるようになった気がします。

 

 

『海を駆ける』
公開日:2018年5月26日(土)
劇場:全国にて
配給:東京テアトル
公式サイト:http://umikake.jp/
(C) 2018「海を駆ける」製作委員会
http://cinema.co.jp/title/detail?id=81165

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