9月9日(金)公開の映画『LOVE LIFE』。
ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門に正式出品。トロント国際映画祭にも選出されている話題作。
矢野顕子さんの名曲「LOVE LIFE」から着想を得て、『淵に立つ』『本気のしるし』の深田晃司監督がオリジナル脚本を書き上げた。
今回はヴェネチア国際映画祭に出席する直前のお忙しい中、深田監督がリモートインタビューに答えてくれた。
矢野顕子の名曲「LOVE LIFE」から生まれた物語
映画『LOVE LIFE』のストーリーは?
妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が⼀望できる。向かいの棟には、再婚した夫・⼆郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙⼦の前に⼀⼈の男が現れる。失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。
一方、⼆郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。哀しみの先で、妙⼦はどんな「愛」を選択するのか、どんな「人生」を選択するのか……。
深田晃司監督にリモートインタビュー🎤
ヴェネチア国際映画祭に出発する前日のお忙しい中、深田晃司監督にリモートでインタビューさせてもらった。
深田監督が二十歳の頃から映画にしたいと温め続けてきた『LOVE LIFE』の根底に流れるものとは何なのかじっくりお話を伺った。
脚本・監督 深田晃司
ふかだ・こうじ/1980年生まれ、東京都出身。1999年、映画美学校フィクションコース入学。2005年、平田オリザ主宰の劇団・青年団に演出部として入団。10年、『歓待』が東京国際映画祭日本映画「ある視点」作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞。13年、二階堂ふみ主演の「ほとりの朔子』が、ナント三大陸 映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。16年、「淵に立つ」が第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞、第67回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。18年公開の『海を駆ける』で、フランス芸術文化勲章「シュバリエ」受勲。ドラマ「本気のしるし』(19/メ~テレ)を再編集した「本気のしるしTVドラマ再編集 劇場版》』は、第73回カンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」に選出された。
深田監督作品に共通するテーマとは?
―― これまでの深田監督の作品とは少し趣が違うように感じました。
深田監督「特別変えたところは無かったんですけど、例えばどんなところが?」
―― もっと気分がおどろおどろしくなる作品が多かったように思います。「本気のしるし」もそうでしたが、”人って本当はこうだよね”という人間の内面が描かれている感じがします。
深田監督「皆さんは公開される順番で観ているので、その流れの中で捉えてくださると思うんですよ。ただここは、観ている人と作る側でズレが生じやすいところですが、映画の企画は同時に走っていて、特に『LOVE LIFE』は20歳の時に矢野顕子さんの「LOVE LIFE」を聴いて映画にしたいと思って、原型となるシノプシスは22,3歳の頃に書いて、温め続けていました。たまたま2015年くらいにプロデューサーの亀田裕子さんとの出会いがあって企画がスタートしたんです。だから順番としては『淵に立つ』よりも前だったんですよ。」
―― では深田監督作品の原点のようなものでしょうか?
深田監督「そうとも言えますね。今回の作品が過去の自分の作品よりややポジティブな気配を感じられたとすれば、矢野顕子さんの歌によるものではないかと思います。歌の力に無意識的に引っ張られたのかもしれないですね。でもよくお話しすることですが、”自分にとって普遍的なこと””自分にとって揺るぎ難いこと”をモチーフにくり返しくり返し描いています。例えば、人の死や、人間は結局は孤独であるということを抱えながら生きていくしかない、ということ。自分としては、それがきちんと描ければ十分だと思っていて、それに対してどう救うかを描くことは映画にとって優先すべきことではないと思っています。今回も最初のシノプシスではそこを描くことで映画は終わっていたんですけど、脚本をここ数年で直していくうちに、”人間は孤独である。それでも誰かと生きざるを得ない”という程度には半歩進んだ物語になったと思います。何でそうなったのかは自分でもはっきりは分からないですね。やはり、矢野顕子さんの歌の力に引っぱられたのかもしれないです。」
「矢野顕子さんの曲の印象的なフレーズ”どんなに離れていても愛することはできる”って本当にいい歌詞ですよね。私たちは離れているということが前提にある。コロナの時代に突入したことで、また大きな意味をもってきたと思います。私たちもいまリモートで話していますけど、距離を以前よりも明確に意識するようになりますよね。ソーシャルディスタンスもあるし、国と国の移動も容易ではなくなりましたし。そういった中でこの歌を聞き直し、映画にするときに、今までよりも映画が相対的に半歩前向きになったのかもしれないと思います。と、いまこうやって言語化していますけど、特別そうしようと意識していたわけではないです。」
―― 意識せず滲み出たものがあるのかもしれませんね。その矢野顕子さんの「LOVE LIFE」を20歳ごろに聞いて、この物語を思いつくのは、さすがだなぁと思いました。その頃から”孤独”などをテーマに描きたいと思っていたのでしょうか?
深田監督「それは当時の方がよりあったと思いますね。多くの人がそうなんじゃないかと思っているんですけど、”孤独”や”結局自分はひとりである”という、ある意味、自我の問題って、10代の思春期に強く感じる方が多いと思うんですよね。根源的な”自分とは何なんだ””生きるとは何なんだ””生きる意味って何なんだ”と考えるのって。それが大人になったり、社会性を帯びていくうちに人は次第に忘れていく。考えないようになっていく。考えても答えが出る問題でもないし、考えれば考えるほど壁にぶち当るので、騙しだまし生きていく。家族を持ったり、信仰を持つとか、色々なことで忘れながら生きていると思うんですよね。そのまま忘れたまま生き抜いて死ねればそれほど幸せなことはないなと思うんですが、何かのきっかけで思い出してしまう。失恋かもしれないし、仕事をクビになるとか、あるいは、何のきっかけもなく、ふと自分は一人だなと思うかもしれない。映画の中ではそういった瞬間を描きたいと思っていますね。だから、22,3歳の時には今以上に自分にとってはシリアスでリアルな問題だったと思いますし、今も自分の中では変わっていないですね。」
―― 映画『LOVE LIFE』の中で、”孤独”というキーワードが象徴的に描かれている、ベランダで木村文乃さん演じる妙子と神野三鈴さん演じる義母が会話するシーンがとても印象に残っています。
深田監督「あのシーンは印象に残ると仰ってくださる方が多いですね。完成する前に、編集について意見を聞くために脚本も読んでいないフランス人の友人に見てもらったんですね。年配の男性で、彼は信仰を持っていないんですけど、”こういう理由だったら信仰を持ってもいいかもしれない”と言っていました。」
―― その気持ちすごくがわかります。ふとした時にやってくる不安や孤独感を、神野さん演じる義母が代弁してくれているように思いました。
フランス人大絶賛の登場人物は?
―― それから、登場人物がみんな自分勝手で興味深かったです。
深田監督「自分勝手ですけど、人間あんなもんじゃないですか(笑)」
―― そう!そうなんですよ!”人間あんなもんだ”というのが深田監督の作品には描かれていますよね。その中でも、山崎紘菜さん演じる(妙子の夫)二郎さんの元カノ”山崎”の台詞がすごく気になっています。全く関係がないのに、二郎さん家族に自分が関わっているかのような言動が独りよがりすぎて(笑)。
深田監督「”山崎”はフランスで人気が高いんですよ。編集や音響のスタッフから人気で、”山崎”のシーンになると、”ヤマザキー!”と歓声が起こるんです(笑)。あの受け身でオドオドした感じがフランス人男性には新鮮なのかもしれないですね。」
―― 守ってあげたいと思わせる女性なのかもしれませんね。この作品には”守る”という言葉も出てきますね。予告にもありますが、妙子が「この人は弱いから私が守ってあげないといけないの!」という。”庇護欲”を”愛”と勘違いしている女性なのかな?と感じました。
深田監督「その点はあると自分も考えています。妙子さんはどんな人物なのかなと考えた時に、誰かとの関係性の中で自分が立つ場所を確保している。例えば、自分はパクさんを守らなければいけないという…まさに庇護者としての立場や、誰かの妻であるという立場、誰かの母親であるという立場を継ぎはぎして妙子という人物ができていて、彼女自身も疑いなくその関係性の中に居る。ある意味、人間の本質で、誰もがそういう面があると思うんですけど、そういったものが一つずつ剥ぎ取られていって、最後には色んな関係性がリセットされて、自分ひとりになる。その後どうなるのか、というのが映画のラストに繋がっていきますね。」
―― 作品のポスターになっている黄色い風船のシーンは、妙子の心情をすごく語ってきますね。かなり長回しですよね。
深田監督「そうですね。曲まるまる一曲分です。自分も好きなシーンですね。」
―― 木村文乃さんは今回、韓国手話と韓国語にもチャレンジされていますね。
深田監督「そうなんです。木村さんは大変だったと思います。韓国語に関しては脚本を直していくうちに増えていったので、途中から”韓国語もお願いします”と練習を始めてもらいました。木村さんは別のドラマの撮影中だったので、撮影の合間、合間で、3ヶ月くらい練習してもらいました。でも全然大変そうではなくて、手話も楽しかったみたいですね。」
―― 木村さんのインタビュー動画を拝見したら、ご自身のお芝居を変えたいタイミングだったと仰っていましたね。
深田監督「そうみたいですね。それはまったく存じ上げずオファーをしたんですけど。」
―― 監督が演出をしていて、木村さんが変わったなという瞬間はありましたか?
深田監督「一番最初に”自分はこういう演技を求めています”ということをワークショップ形式でキャストの全員にお伝えして、リハーサルをやりましょうとなるんですけど、木村さんと永山さんはテレビドラマに出演している最中で合間を縫って来ていただいていたんですね。演技は色々なタイプがあるから何が良くて何が悪いという話ではないんですが、テレビドラマの非常にメリハリの効いた伝わりやすい演技をまずは見せてくださって、それは自分の求めているタイプの演技ではなかった。自分が求めている演技というのは、お客さんに対して、今どういう気持ちであるとか、どういうキャラクターであるということを伝えようとするのではなくて、目の前にいる共演者とコミュニケーションをとることだけに集中してほしいと説明したら、やはり上手い方なので、こちらの意図をちゃんと汲んで下さって、変えていってくれました。でも普段テレビドラマの方が多いそうなので、時々油断すると上手く演じるというのが出てきちゃう。そういうメリハリの効いた飽きさせないような芝居が求められる場面もあるので、必ずしも否定するわけではないんですけど、今回の映画には合わないので、その都度その都度、抑えさせてもらいました。」
―― ワークショップというのは、最初に共通認識をもってもらうためですか?
深田監督「ワークショップといっても、自分の場合はほぼ座学ですね。映画を何本か観て、その中の演技の違いを解説したり、考えたりしながら、いい演技とはなんなんだろうと考察して共有します。一本は『グランドホテル』という、エドマンド・グールディング監督の第5回アカデミー賞作品です。典型的なハリウッドのメリハリの効いた芝居で、もう一本は、ロベール・ブレッソン監督の『田舎司祭の日記』の削ぎ落された芝居。これらの作品を観てもらって、演技における説明とは何かを皆で考えていく。」
―― 対極にある作品を観てもらうんですね。
深田監督「そうですね。演技の方向性の共有をした上でリハーサルに入ると、自分も説明しやすいので、共通認識としてお話します。」
ロケ地もキャストも!映画作りは奇跡の連続!
―― それから、ロケーションがとてもいいですよね。向かい合わせになっている団地はすごくこだわりを感じました。
深田監督「あれはいくつも当たって、ようやく見つかってホッとしました(笑)。向き合っている2つの棟と、向かい側にある公園の行き来で物語が進んでいくというのは決めていて、2階と4階を借りる必要があったので、制作部が静岡県や遠方まであちこち探してくれて、3つ4つくらい候補があったんですけど、なかなか決定打がなくて。最後の最後に八王子の団地が見つかって、ほぼ脚本のイメージと合致している場所だったので、本当に制作部に感謝ですね。」
―― 冒頭の向かい合わせの団地のベランダから大声で話すシーンと、パクさんが登場してからの手話での会話の対比が凄く考えられているなぁと思いました。
深田監督「ありがとうございます。今回は発話のコミュニケーションと手話のコミュニケーションの対比は結構意識しています。二郎が妙子に話しかけるんだけど、車の窓が閉まっていて聞こえなくて、開けて声をかけるとか、本来は声が聞こえないような窓ガラス越しの空間でも手話だからコミュニケーションがとれるとか。そういったことは対比としていくつか入れていきました。」
―― 今作を撮影している中で、奇跡的なラッキーなことはありましたか?
深田監督「映画をつくっている誰もがそう思うでしょうけど、奇跡の連続ですよ。木村文乃さんや永山絢斗さんが見つかったこともそうですし、砂山アトムさんがオーディションに来てくださったことも奇跡ですし、ロケーションが見つかったことも、めちゃくちゃ芝居のうまい猫が来てくれたことも。そう、子役の敬太くんはめちゃくちゃ上手かったですね!」
―― 本当にそうですね。可愛かったですし、自然でしたよね!
深田監督「本当に天才子役でした。演技経験はあるんですけど、子役芝居が染みついていない。そこはセンスだと思うんですけど、決められたセリフは全部決められた通りに言ってくれるし、決められたアクションをしてくれるんですけど、解釈の自由さが半端ないですね。大人の俳優ではなかなかできない。」
―― 本当のご家庭の生活を見ているようでした。
深田監督「そうですか。本当にそんな感じでした?良かったです(笑)。」
ヴェネチア国際映画祭、出発直前!いまのお気持ちは?!
―― 緊張していますか?ヴェネチアは初めて?
深田監督「いやいや、選ばれただけで有難いので気楽に行きます。行くのも初めてですね。」
―― ヴェネチアだけでなく、トロント国際映画祭もですよね?
深田監督「そうですね。ヴェネチアからそのままトロントに行きます。」
―― 日本で公開されても監督は日本に居ないんですよね?
深田監督「珍しい事態ですよね。公開と映画祭が重なるのは宣伝としては最高なんですけど、ここまで重なるのは珍しい。」
―― では、何か携えて帰国されるのをお待ちしています。
深田監督「空気かもしれませんが(笑)。」
【作品概要】
■タイトル:『LOVE LIFE』
■出演:木村文乃 永山絢斗 砂田アトム 山崎紘菜 嶋田鉄太 三戸なつめ / 神野三鈴 田口トモロヲ
■脚本・監督:深田晃司
■主題歌・挿入歌:矢野顕子
■配給:エレファントハウス
■公開:2022年9月9日(金)
■公式サイト:https://lovelife-movie.com/
(C)2022映画「LOVE LIFE」製作委員会&COMME DES CINEMAS
深田晃司監督の過去の記事はこちら👇
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