”自己否定と自意識過剰” そんなわたしは最悪ですか?

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本年度アカデミー賞ノミネート、カンヌ国際映画祭【女優賞】受賞の映画『わたしは最悪。』。

ノルウェーの異色作が世界で共感を呼んでいる秘密を探る。

アカデミー賞ノミネート、カンヌで【女優賞】その実力は?

7月1日(金)公開の『わたしは最悪。』。

わぁいいタイトル(笑)!原題は『The Worst Person In The World』。私は邦題の方が好みですが皆さんいかがでしょう?

どんなぶっとんだ”最悪”が描かれているのかと期待しますが、そこは結構裏切られます。良い意味で。

『わたしは最悪』とは?

本年度の賞レースは、ノルウェーの〈異色作〉の話題で持ちきりだ。1人の女性の日常を描いた映画なのに、「痛烈」「破壊的」「素晴らしく新鮮」「センセーショナル」「スリリング」と、何ともミスマッチな熱いレビューが殺到し、一大ムーヴメントを巻き起こしている。

主人公ユリヤを演じるのは33歳にして映画初主演を果たしたレナーテ・レインスヴェ。「かつてないスターの到来」と絶賛され、第74回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したのをスタートダッシュに世界で数々の賞を席巻し、遂に第94回アカデミー賞®でも脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされた。
監督は『母の残像』『テルマ』のヨアキム・トリアー。芸術の都オスロを舞台に、遊び心溢れる独創的な映像とキャッチーな音楽でユリヤの人生のターニングポイントを追いかけるが、そこで彼が描くのは【圧倒的なリアル】だ。ロマンティックでセクシーな恋、ヒリヒリする現実、ときめく未来…「どこかにもっと特別な自分がいる」と期待し、時に自己嫌悪に陥りながら、そして時に衝動的に、自分に正直に人生を選択していくユリヤ。そのリアル過ぎる姿は、観る者の心を掴んで離さない。新時代を生きる全ての人に贈る、全く新しい人生賛歌。 (作品資料より)

この作品が世界で「共感」される理由は、そのリアルさにあると思う。

《理想の未来》と《シビアな現実》の間で揺れながらも、”最悪な本音”で正直に人生を選択していくユリアの恋と成長の物語

とあるが、”恋と成長の物語”がキレイに描かれているわけではない。かといって泥沼でもない。ドタバタコメディでもない。

私たち観客の日常に、映画やドラマになるようなドラマチックな展開はまずない。

ユリアは私たちの日常の代弁者だ。

自己否定と自意識過剰の先にある「わたしは最悪。」

『わたしは最悪。』の”最悪な?”ストーリーは?

アート系に才能のきらめきを見せながら、「これしかない!」という決定的な道が見つからず、まだ人生の脇役のような気分のユリヤ。そんな彼女にグラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセルは、妻や母といったポジションを勧めてくる。ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的なアイヴィンに出会う。新たな恋の勢いに乗って、ユリヤは今度こそ人生の主役に躍り出ようとするのだが──。

主人公・ユリアは学生時代は成績優秀、医者を目指すも、自分は”身体”ではなく”心”に興味があると言って心理学の道に進み、それも中途半端なまま、カメラマンを志す。

これは映画のほんの冒頭。自分は何に興味があるのか?何に熱中できるのか?わからないから”ちょっと得意な気がする”ことに次々に足を踏み入れてみるユリア。

20代の頃は流れや気分に身を任せていても、”何とかなる”という根拠のない自信がある。が、ユリアの自意識過剰な部分は、傍から見ていてイタイほどではない。誰もが通る道だ。

しかし、30代になると急に”何者にもなれていない自分”に不安を覚える。(自分の経験から言うと、徐々に不安になるというより、急にズシっと迫りくる)

それに気づいたからといって、これまでの自分が劇的に変わるわけもなく…。格差のある彼氏との関係にもモヤモヤする日々。

皆さんも、身に覚えがありませんか?

この『わたしは最悪。』というタイトルが好きなわけはコレだ。

家族や友人に対して、恋人に対して、”わたしって最悪だな”という言動をしてしまう。ひと言多いとか、売り言葉に買い言葉とか。

そのたび自己否定を繰り返す主人公。身に覚えがありすぎる。大失敗はしないけど、小さな自己嫌悪に落ちて、浮上して、またやらかして…。

誰にでも当てはまる、この”リアルな共感”が、ユリアと自分をシンクロさせ、世界中をも魅了するのだと思う。

ラストにユリアと共にあなたは「わたしは最悪」から抜け出せるだろうか?

私はこの作品で自己肯定を少しできるようになった気がする。

リアルとファンタジーのギャップに注目

12章と最終章からなる『わたしは最悪。』

ユリアの心象風景がファンタジックに描かれるシーンもあり、物語のベースとなるリアルな日常とのギャップの付け方が秀逸でした!

『わたしは最悪。』

■監督: ヨアキム・トリアー 『テルマ』(17)『母の残像』(15)
■脚本: ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト
■出演: レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバート・ノードラム
■公式HP:https://gaga.ne.jp/worstperson/
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