3月24日(金)公開の映画『ロストケア』。
42人を殺めた殺人犯を演じた松山ケンイチとそれを追い詰める検事を演じる長澤まさみの初共演でも話題の社会派エンターテイメントだ。
公開を控えた3月17日(金)に日本福祉大学の学生に向けた公開特別授業が行われ、松山、長澤などが登壇し、介護殺人や介護の問題に関心を持つことの大切さなどを語った。
松山ケンイチ、長澤まさみ、鈴鹿央士の特別授業を詳細レポート!
3月17日(金)、愛知県にある日本福祉大学・美浜キャンパスで、映画『ロストケア』を通して介護について学ぶ公開特別授業が行われ、社会福祉学部の学生が参加した。
会場には殺人犯・斯波宗典を演じた松山ケンイチ、斯波を追い詰める検事・大友秀美を演じた長澤まさみ、検察事務官・椎名幸太を演じた鈴鹿央士、前田哲監督、原作の葉真中顕が登場し、社会福祉学部で介護殺人支援などを主な研究テーマとする湯原悦子教授と共に登壇した。
本編を見た学生からは、「私も4年間在宅介護をしていて、映画内で親子の言い争うシーンとか、私の家庭でも日常的にあったので、この映画は介護者と被介護者の過剰な演出ではなくて、リアルにある家庭の問題を映していると思った。」と実際に若くして介護を経験した立場からの感想があがり、また、別の学生からは「この映画をフィクションだと思ってはいけないと強く感じた。劇中の”見えるものと見えないもの”ではなくて”見たいものと見たくないものがある”というセリフが印象的で、”見たくないもの”こそ大事なものであって、学生としてどうやってそれを解決していくのか考えていかなければならないと感じた。」という熱のこもった声が上がった。
学生と同年代の鈴鹿は学生からの感想を受けて、「問題提起できる映画にしっかりなっているなと改めて思い、嬉しかったです。僕と同世代の方は、実際に介護をしたことのない方がほとんどだと思うので、この映画で介護について考えるきっかけになってほしい。」と語り、印象的なシーンとして「(劇中で)綾戸智恵さんが演じていた刑務所に入れてほしいと言う高齢者の方も実際にいると聞いて、撮影中不思議な感じがあり印象に残っています。」と話した。それに対して前田監督は、「実際にそういう事態になっている高齢者の方もいるので、あのシーンから始めたかった。そう感じてくれて良かったと思います。」と答えた。
原作「ロストケア」を執筆したころのことを葉真中は、「私がたまたま介護をしなければいけなくなって、実際に当事者となり、突然やってくると。何も準備していない状況で分かったのが、介護は色んなレイヤーがあるということ。お金とか家族間の密度とかで同じような状況なのに、人と人の間に物凄い格差が生じていた。同じような年代で同じような病気になったのに、天国と地獄のようになってしまい、さらに介護業界の混乱が重なり、すごい事になっていることを肌で感じたので、それを小説にしようと思いました。」と自らの経験も踏まえて作品の背景を明かした。
前田監督は本作の映画化について、「原作と2013年に出会って、憤りやすごく熱い思いを感じて、映画化しなければならないと思って始まりました。今でこそヤングケアラーという言葉も言語化されましたけど、それまでは無自覚にそういう状況に陥っていることがあったと思うんですね。映画にどれだけの力があるか未知数ですが、映画を観た人が話題にすることが一つのきっかけになる。ニュースでも見出しで素通りしていた人がその内容を読んでみる。そういう興味を持ってもらうことが社会を変えていく原動力になると思っています。」と想いを語った。
授業では介護殺人について堀り下げ、42人もの老人を殺めてしまった斯波へどのような刑罰が必要なのかについて、検事役を演じた長澤は、「とっても難しい問題なんですが、斯波がした行為は許されるものではないと思いますし、厳しい刑罰を受けるのは必要なのかなと思います。だけど、斯波自身は自分がしたことに対して、これは”救い”だと、彼の正義のもとに語っているものなので、法的な刑罰というのが斯波にとって罰として捉えられるのか難しそうに思います。悪いことをしたから罰を与えるということではないと感じました。」と話した。
父親の介護で追い詰められていく息子をとてもリアルに演じた松山は、劇中でも介護者が直面する困難が様々描かれている今作での斯波の役柄について、「すごく意識したことがあるんですが、斯波は皆さんと何も変わらない、異常者ではない、というのを大事にしました。外側から見ていると事件ということだけど見てしまって、誰かに助けを求めれば良いのに、思ってしまう。でもそうではない状況が裏側にある。立場によって見ている景色が全く違う。それを防ぐために、誰かと話をしたり、介護をすることを共有する、どういうセイフティーネットがあるのか調べる選択肢を持っていてほしいと思いますね。結局こう思うのも余裕がある人ができる。余裕がなければ、いま目の前にいるお父さんの介護で精一杯になってしまう。周りの人たちが孤立させないことが大切です。皆さんもこれから介護を経験されたり、介護の仕事に携わっていく方もいると思いますが、介護についてたくさんの人と共有していくことで救われる命が増える可能性があると思う。学んだ人だけが見えているものではなくて、たくさんんの人が見えていないといけない課題だと思います。」と学生たちに語りかけた。
最後に、斯波のように介護殺人を起こさないために、「支援者の立場としてサポートすることがあった時には、目の前にいる人たちの背景に思いを馳せてほしい。介護者へも支援が必要。そして何よりも大切なのは一人でも多くの人がこの社会問題に関心を持つこと。」と今回の授業のテーマを学生たちに呼びかけ、公開特別授業が終了した。
映画『ロストケア』を解説!
映画『ロストケア』とは?
日本では、65歳以上の高齢者が人口の3割近くを占め、介護を巡る事件は後を絶たない。この問題に鋭く切り込んだ葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作「ロストケア」を、「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」「そして、バトンは渡された」の前田哲監督が映画化。
介護士でありながら、42人を殺めた殺人犯・斯波宗典に松山ケンイチ。その彼を裁こうとする検事・大友秀美に長澤まさみ。社会に絶望し、自らの信念に従って犯行を重ねる斯波と、法の名のもとに斯波を追い詰める大友の、互いの正義をかけた緊迫のバトルが繰り広げられる。
松山ケンイチと長澤まさみが初共演し魂の演技で激突。他にも、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、藤田弓子、柄本明と実力派俳優が出演する。現代社会に、家族のあり方と人の尊厳の意味を問いかける衝撃作だ。
映画『ロストケア』ストーリーは?
早朝の民家で老人と介護センター所⾧の死体が発見された。
犯人として捜査線上に浮かんだのは死んだ所⾧が務める訪問介護センターに勤める斯波宗典(松山ケンイチ)。
彼は献身的な介護士として介護家族に慕われる心優しい青年だった。検事の大友秀美(⾧澤まさみ)は斯波が務める訪問介護センターで老人の死亡率が異常に高いことを突き止める。この介護センターでいったい何が起きているのか?大友は真実を明らかにするべく取り調べ室で斯波と対峙する。 「私は救いました」。斯波は犯行を認めたものの、自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」だと主張する。斯波の言う「救い」とは一体何を意味するのか。
なぜ、心優しい青年が未曽有の連続殺人犯となったのか。斯波の揺るぎない信念に向き合い、事件の真相に迫る時、大友の心は激しく揺さぶられる。
公式HPより
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