映画『生きててごめんなさい』は”メンヘラの映画”なのか?
今を生きる私たちには、カテゴライズできない、されたくない、悩みや閉塞感が常に付きまとう。この映画で細い針で刺されるようなチクリとした痛みを感じる人も多いのでは?
「新聞記者」「余命10年」の藤井道人が企画・プロデューサーを務め、メガホンをとったのは、綾野剛主演のドラマ「アバランチ」で藤井と共に演出を担当した新鋭・山口健人。
全国で順次公開中、名古屋では2月10日(金)に上映がスタートする。
主人公・修一(黒羽麻璃央)の恋人・莉奈を演じた穂志もえかさんに本作の魅力や制作秘話を聴いた。
穂志もえかさん インタビュー🎤
―― 穂志さん、お会いしたかったんです。
穂志さん:嬉しいです(笑)。
―― 今泉力哉監督の「街の上で」「窓辺にて」の演技がとても印象に残っています。今回のとはまったく違うイメージの役なので、新たな穂志さんを見せてもらえたように思います。
穂志さん:私にとっては、何をやっても自分なので、そう思っていただけるのは嬉しいです。
―― ということは、憑依型というか、その役に入り込んでしまうタイプですか?
穂志さん:その言葉を最近よく耳にするようになったのですが、どうなんでしょう…、自分では意識していないです(笑)。
―― 撮影中は私生活でも役が抜けないという方もいますね。
穂志さん:そこまではなったことが無いですが、私生活から役柄を意識していることはあります。その人物が買いそうなものを買ってみたり、“この役だったらこうするだろうな”ということを想像したりはしています。
―― 今回の莉奈の場合、こういうものを食べてみたとか、買ってみた、ということはありましたか?
穂志さん:山口監督が莉奈の過去にこんなことがあったというエピソードを考えていらっしゃったので、そういったお話を聞かせてもらいました。山口監督と一緒に作り上げていった役です。
―― 脚本も山口監督なんですよね?どうしてこういう作品を作ろうと思ったのか、監督からお聞きになりましたか?
穂志さん:昨日(1/23)の完成披露舞台挨拶に、(企画・プロデューサーの)藤井道人さんも来てくださり、伺ったのですが、最初、プロデューサーさんサイドから“メンヘラの映画を作りたい”という話があったそうです。藤井さんは“これは僕じゃない”と思ったそうで、山口監督に興味があるか聞いたら、“メンヘラの映画なら任せて”というのがスタートだったらしいです(笑)。でも山口監督は、“メンヘラ”という言葉でカテゴライズされて、片付けられてしまうことに違和感を覚えていて、各々事情があってそうなってしまっているだけで、莉奈のような子も認められるようになってほしい、という思いがあるというお話を、一番最初にお聞きしました。
―― “メンヘラの映画”と紹介されるのも嫌なんでしょうね。
穂志さん:昨日の舞台挨拶では、キャッチ―だからか、最初、山口監督自身もそうおっしゃっていたのですが、その後きちんと補足されていました(笑)。
―― 確かにキャッチ―ではありますもんね(笑)。穂志さん的にはこの映画を短い言葉で表現するとしたら何だと思いますか?
穂志さん:うーん…。日常、人生がどことなく苦しい、もしくはめちゃくちゃ苦しい人たちの映画ですかね。
―― うんうん。今の若者の“病み”を描く、というキャッチコピーが書かれていますが、昔からそうだよな、と思うんですよね。今の方がもしかしたら、SNSに晒されたり、ジェンダーレスとか多様性とか、より表面化してきたから、今の若者は大変だよね、と言われるのかなと思いますね。
穂志さん:そうですね。言葉が出来て、認められてきていると同時に、何でもそれに当てはめてしまう。各々の事情があるのに。
―― 穂志さんはこの脚本を読んだときに、この役をやりたいと思ったんですか?
穂志さん:オーディションだったんですけど、最初の脚本は、完成した作品と冒頭も結末も違う内容だったんです。
―― 全然違うんですか?
穂志さん:そうなんです。最初は莉奈の描かれ方も、もうちょっと大人っぽくて、その状態の莉奈にすごく共感し、“これは私なのか?”と思いました(笑)。“私がやるべき役だ”という気持ちになりました。
―― “これは私”という風に思ったということですが、いまお話ししている穂志さんとはイメージが違うように感じます。
穂志さん:脚本やセリフがどんどん変わっていき、衣装が決まっていく中で、役柄も少しずつ変化していきました。脚本が変わるたび、シーンが追加されるたびに、山口監督さんとお話ができたので、しっかりすり合わせをして撮影に臨めました。
―― すり合わせをしっかりしていないと、演技だとはいえ、精神的に追い込まれそうな現場だなと思ったのですが。
穂志さん:莉奈はすごく動物的な生き方をしているような気がします。言いたくなったら言っちゃう、やりたくなったらやっちゃうなど、衝動的に動いてしまう。そういうのって、現場で演出をされてやるものとは少し違うような気がしていて、湧き出てくるものを表現する、というものにしたかったので、事前に山口監督とたくさん話し合いができてよかったです。私は莉奈という人間をかなり理解できている状態で、莉奈としてカメラの前に立ち、莉奈として反応することができたので、苦しかったですけど、本能のままに生きた、という感じでした。
―― 莉奈に共感できたのは、ご自身の経験からですか?
穂志さん:標的にされがちだったり、いつもどこか馴染めなかったり、“普通”に憧れたり、物事を“仕方ない”と割り切るのが苦手だったりするところは似ていると思います。自分を丸ごとは愛せず、他人と比べて、他人に憧れている。それは実は修一も同じなんですよね。私もまだ愛せていないので共感できました。
―― 自分を丸ごと愛するのは、永遠に難しいことですよね。修一と莉奈は依存し合っているところがあって、二人が言い合いになるシーンも多かったですが、黒羽さんとの撮影はいかがでしたか?
穂志さん:莉奈は修一との世界しか知らないから、修一に依存するしかなかったけど、もし友達が居て、コミュニティが他にあったら分散していたと思うんですけど。本当に修一がすべてで、100%の絶対的な信頼をおいていたから、撮影中はとてもしんどかったです。修一との関係が崩れていったり、修一に嫌われることで、莉奈も崩れていくような感覚でした。
―― 部屋で莉奈が布団を頭からかぶっている、あのシーンのやり取りは、痛かったです。
穂志さん:修一が莉奈に“帰れるところが無いんでしょ?”“楽したいからここに居るんでしょ?”というシーンですよね。莉奈がうまくいきだしたからケンカが増えたり、強い言葉が増えたりする。傷つけに行っているようですけど、本当は嫌いじゃないんですよね。恋愛あるあるだと思いました。“あ、今の言葉間違えた!”って。修一は間違えすぎですけどね(笑)。
―― 黒羽さんとのシーンで他に印象に残っていることはありますか?
穂志さん:二人で海に行ったときの坂のシーンですね。莉奈が“何で応援してくれないの”と言う一連のシーンは何回も撮影しました。黒羽さん大丈夫かな、と心配になるくらい追い詰められている感じがして。
―― 山口監督のこだわりですか?
穂志さん:そうですね。もう一回行こう!もう一回行こう!って。それだけ粘れるというのは素敵だなと思っていて、より良いものを、妥協せずに、もっとできると思って時間をかけられる。監督は修一に自分を投影していて、私とは真逆で、黒羽さんに対して演出をされることが多くて、黒羽さん、めちゃくちゃ闘っていらっしゃるな、と思いました。
―― キツい言葉を言われる方も辛いですが、言ってしまう方も相当メンタルがすり減らされますよね。
穂志さん:どのくらい嫉妬をむき出しにするか、強がるふりをするのか、そのバランスがすごく難しかったと思います。
―― それくらいお二人は修一と莉奈を生きていたんですね(笑)。あのヒリヒリするシーンの前に、二人が楽しげにデートをする様子があるから、余計に辛さが増しますね。
穂志さん:完成した作品をこれまで3回見たんですけど、何だか笑ってしまいました。気まずかったのに、海をみたら手を繋いで走り出しちゃうんだ!急に全部を忘れたみたいに楽しめるんだ!と(笑)。あと、防波堤のようなところで、修一が莉奈のリボンを結んであげるシーンがあるんですけど、“苦しい”という意味が込められていて、何だかんだ修一が莉奈を放したくない、縛っておきたい、うまくいって欲しくない、このままで居たい、という意味が含まれているんです。
―― そうなんですか!
穂志さん:はい。あのシーンには縛り付けていたいという思いが込められていたそうです。なかなかそこまで気づけないかもしれないけど、山口監督のデティールを感じられるシーンですね。
インタビュアー:神取恭子
映画『生きててごめんなさい』を解説!
映画『生きててごめんなさい』とは?
『余命10年』の藤井道人が新たなテーマを世に送り出す。本作の監督を手掛けるのは、藤井監督の下で多くの作品に携り、綾野剛主演のドラマ「アバランチ」では藤井と共に演出を担当した新鋭・山口健人。令和を代表する二人のクリエイターが、現代日本の若者たちが抱える「病み」を鋭い視点で描く。
主演は、社会現象を引き起こしたミュージカル「刀剣乱舞」メインキャラクターである三日月宗近役を務め、圧倒的な人気を誇る黒羽麻璃央。本作ではそれまでの華やかな役とは違う一癖ある難しい役どころに挑戦する。そして、ヒロイン莉奈役は、映画『少女邂逅』(監督:枝優花)で初主演を務め、『街の上で』(監督:今泉力哉)などの話題作に出演し、アメリカのテレビシリーズ「SHOGUN」の放送が控えるなど、着実にステップアップしている穂志もえかが務める。
映画『生きててごめんなさい』ストーリーは?
出版社の編集部で働く園田修一(黒羽麻璃央)は清川莉奈(穂志もえか)と出逢い、同棲生活をしている。修一は小説家になるという夢を抱いていたが、日々の仕事に追われ、諦めかけていた。莉奈は何をやっても上手くいかず、いくつもアルバイトをクビになり、家で独り過ごすことが多かった。
ある日、修一は高校の先輩で大手出版社の編集者・相澤今日子(松井玲奈)と再会し、相澤の務める出版社の新人賞にエントリーする。一方、自身の出版社でも売れっ子コメンテーター西川洋一(安井順平)を担当することになるが、西川の編集担当に原稿をすべて書かせるやり方に戸惑う。修一は全く小説の執筆に時間がさけなくなり焦り始める。
そんな中、莉奈はふとしたきっかけで西川の目に止まり、修一と共に出版社で働く事となる。西川も出版社の皆も莉奈をちやほやする光景に修一は嫉妬心が沸々と湧き、莉奈に対して態度が冷たくなっていく。いつしか、喧嘩が絶えなくなり―。
公式HPより
コメント