vol.156 映画『空に住む』 青山真治監督インタビュー

映画『空に住む』 青山真治監督インタビュー 【過去記事】シネマクエスト「神取恭子のシネマコラム」

青山真治監督、7年ぶりの長編作品『空に住む』。

多部未華子さん、岩田剛典さんのミステリアスな演技にも注目!

青山監督にリモートインタビューさせてもらいました.。

タワマンに住む人々

2000年に公開された『EUREKA ユリイカ』で、カンヌ国際映画祭批評家連盟賞、エキュメック賞をダブル受賞した、青山真治監督。

菅田将暉さん主演の『共喰い』(2013)以来、7年ぶりの長編映画監督作となる。

今作の原点は、作詞家 小竹正人氏の処女小説「空に住む」。そして、小説の主題歌として書かれた、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEのバラード曲「空に住む~Living in your Sky~」。

小説、曲を元に、青山監督により肉付けされた主人公・直実を多部未華子さん。直実と同じタワーマンションに住むスター俳優・時戸森則を岩田剛典さんが演じている。

直実が働く出版社の後輩に岸井ゆきのさん。直実にタワーマンションの一室を貸す叔父夫婦に鶴見辰吾さん、美村里江さん。作家役に大森南朋さん。そして出演シーンこそ少ないが、柄本明さんや永瀬正敏さんが印象深い役として登場する。

両親の急死により、愛猫のハルとともに都心のタワーマンションに暮らすことになる直実。喪失感、虚無感からの再生が描かれる作品だが、そこに登場する人物たちの佇まいにどこかホラーのような感触もあった。

それを青山監督に伺うと、「ホラーと言った人はこれまでいない」とのこと。

あれ?私の感覚がちょっと突飛だったかしら?

皆さんはどんな印象を持たれるのか、公開後の感想が楽しみです。

青山監督にこだわりのシーンや、目からウロコの監督流の映画づくりについてリモートインタビューさせてもらいました。

ワインとオムライス、そして食べられる花

――この映画の出発点は、小説・曲ですが、それを元に映画化するのにどのようにアプローチしたのでしょうか?

青山監督:何より内容をどうするかが気になりました。原作や歌では主人公が現実に何をやっている人なのかいまいち明瞭でなかったんですね。自分がいま映画を作るとしたら、明瞭に仕事を持っている女性でやりたいと思っていました。それがオリジナルでも、原作ものでも。何か仕事を持っている人であってほしいと提案したのが僕のアプローチのスタートでした。

――主人公・直実が出版社に勤めているというのは青山監督の発案でしょうか?

青山監督:自分の知り合いで同業者でないとすると編集者。僕の担当は8割方が男性なので、女性の編集者のイメージは無いんですが、仕事内容は大体わかる。仕事内容を突っ込んで描くつもりはなくて、人間関係の方のドラマで時間を費やしたかったので、なるべくクローズアップしなくてもいいような仕事を選びました。

――その出版社が特徴的ですよね。いわゆるオフィスではなく古民家のようなところで畳敷きで。

青山監督:何となくそんなイメージを伝えたら、「こういうところがあるよ」と連れて行ってもらって決めました。確か戦後すぐくらいの映画で詳しくは忘れてしまったんですけど、溝口健二の映画の中にああいう出版社の設定があったはずです。

――記憶の片隅に残っていたんですね。あの出版社で働く直実はとても個性的だなと思いましたが。どのようにキャラクターを作っていったのでしょうか?

青山監督:大部分は多部さん自身が作り上げたものです。僕と脚本の池田千尋さんは人間関係は書いていたんですけど、キャラクターの肉付けは多部さんご自身の中から出てきたんだと思います。

――これまで多部さんは明るい女の子を演じることが多かったので、今回かなりイメージチェンジされたように感じました。キャスティングはどのように決まったのでしょうか?

青山監督:プロデューサー陣の提案があって決まりました。決め手という感じでもなく、ストレートに「もちろん、喜んで」と。もともとファンだったので。うちの娘にどうかね、と思っていたくらい(笑)。

映画『空に住む』

――どの作品を観て多部さんのファンになられたんですか?

青山監督:10年くらい前の「デカワンコ」というドラマの多部さんが素晴らしくて。軽快に走り回ってユーモアたっぷりで、本当に好きな作品です。ああ、こういう娘がいたらなぁ、と思って観ていました。

――それこそ、デカワンコと今回の役では全然違いますよね。

青山監督:デカワンコのときはデカワンコの魅力があったんですけど、今は30代なりの多部さんの魅力をどうやったら引っ張り出せるんだろうとアプローチしていきました。そういうことが直実のキャラクターづくりのヒントになったかもしれませんね。

――多部さんとはよくお話をされたことは?

青山監督:これは多部さんに言われたんですけど、「結局何も喋らなかったですね」と。他の人には多少言ったかもしれませんが、多部さんに関してはほぼ何も言わず「いいですね、それで行きましょう」という感じでした。つまり、シナリオに対する解釈が遠くない、ほぼほぼ一緒だったのかなと思っています。

――勘の良い女優さんなんですね。

青山監督:そうとしか言いようがないですね。僕は何も言わなかったので(笑)。

――普段は青山監督は演出したいタイプなんですか?

青山監督:すみません。何も言わないです普段から(笑)。唯一、某若手俳優だけは僕にすごくいじめられたと言い張っていますが、それは嘘だと思いますね。7年間しつこく言っていますけど、濡れ衣です(笑)。(菅田将暉さん主演『共喰い』)

――では、今回の岩田剛典さんにもあまり演出されていない?

青山監督:そうですね。キャスティングの段階で間違った人を選んでいないというのが前提だと思います。“ここまで行ってるから、もうひと声行こうぜ”というアプローチの時はものを言うと思うんですけど、“何か違う”という形では誰に対しても無かったですね。

――今回岩田さん演じる時戸はちょっと悪い男で、こちらもこれまでの岩田さんのイメージとは違う役でした。一番に気になったのは、マンションのドアの前で時戸が花を食べているシーンだったのですが、どういう人物像、意図で?

青山監督:どういう人物像…僕も分かりません(笑)。あれはシナリオに書いたのかなぁ?撮影の数日前に「食べられる花ってある?」と言った記憶があります(笑)。何だったんだろうな?

映画『空に住む』

――あれがすごく不気味だったんですよね。心の闇を感じるというか。

青山監督:皆どこか病んでいるというか、どこか闇を抱えている人たちが出てくる作品。今の時代そういうのが無い方が嘘な気がするし。無い無いと言い張っても何処かにはある、というのが現代に生きるということじゃん!という風に持っていこうとしていたんでしょうね。

――時戸が直実のインタビューを受けるシーンで、夢は「地面に足をつけて立つこと」と言っていて、このシーンの前から、“地に足のついていない人たちの話だな”と思いながら観ていたので、最後にすごく納得がいきました。

青山監督:あまり地に足の着いた人を見たことがないので(笑)。だいたい皆フワフワしている。

――そうですね。私はタワーマンションにはもちろん住んでいませんが、グサッとくる部分が多かったです。

青山監督:タワーマンションに住むことを受け入れる時点で、地に足がついていない。叔父さんに言われても断れよ、と思いますね。

――その他に気になったのが、ワインが多く登場しますが、どういうお考えで?

青山監督:部屋の中を映すときに、あの限りなく黒に近い赤があると画的にバランスがいいと思ったんですね。最後には部屋の中の照明を琥珀色に持っていこうと思っていて、琥珀色、アンバーぽい色にするなら、飲み物はそれより濃い色に持って行かないとな、と。

――色からイメージすることが多いんですか?

青山監督:多いですね。だからオムライスになったのも黄色だからです。ケチャップもあるから、ちょうどいいなと。画面を作る上で色は重要です。

映画『空に住む』

――7年ぶりの長編映画となりますが、ブランクがあったのには何か理由があるのでしょうか?

青山監督:単純に何もしていなかったわけではなくて、あれこれ色々やっていました。特に大学の先生をやっていたのが5年間。この『空に住む』の準備に2年かかっています。映画は7年ぶりですけど、間にちょこちょこ仕事をしてきたので、自分の中でテンションが切れていたり、考えがあって作らなかったわけではないです。

――私も大学で講師をしているので、学生から刺激をもらうことがたくさんあるなと感じています。5年間大学の先生をしたことで、映画づくりに影響はありましたか?

青山監督:学生に何かを教えるためには、自分も勉強しなければいけないですよね。“この映画はこんな風になっているけど、もう少し突っ込んで考えたら、こうなっている”ということを何年間も研究したんですよ。今まで以上に映画のことを考えるようになっていった。落ち度のないように映画が作れるようになったのかなと思います。

――今回それが如実にでた場面などはありますか?

青山監督:逆に言うと、今までは“あの映画のあんなシーンが作りたい”と思いながらやっていたんですけど、そういうことを考えないままひとつのシーンを作っていくことができるようになったのだろうか…。やってみたらやれちゃったみたいな感じですね。だから研究の甲斐がありました。

――ご自分の中で気に入っているシーンはありますか?

青山監督:良かったかどうかは別にして、力を入れたのは、先ほどの“地に足をつけたい”という最後のインタビューシーンですね。あれは一番力が入っていますね。僕なりに。

――シーンとしてはすごくシンプルですよね。特にどこに力を入れられたのでしょう?

青山監督:ひとつは芝居の構築ですね。そこでもあまり指示してないんですけど(笑)。やり取りの中で、二人がどこまで感情を殺すのか、或いは出すのか、加減しながらやっていくこと。さらには、カメラ位置が微妙に変わっていきます。最初わりと左側で撮っていたのが、だんだん真正面になって、次は右側にいく、というようにちょっとずつ変えていくやり方です。1カットずつ考えながらやっていきました。それによって印象が変わるはずです。あまりわかりやすく変化するより、ちょっとずつ変えてく方が観客の心には残ると思います。

――お見事です。気づかないまま、監督の術中にハマっていました。今後は映画製作のペースは上げていきたいとお考えですか?

青山監督:上げていきたいですね。死ぬまでの間に出来る限りの本数を作り上げたいと思っています。

――オリジナルも考えていらっしゃいますか?

青山監督:考えています。来年も青山に撮らせろと全世界にアピールしてください(笑)。

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