vol.136 映画『his』  宮沢氷魚さん、藤原季節さん 名古屋舞台挨拶

vol.136 映画『his』  宮沢氷魚さん、藤原季節さん 名古屋舞台挨拶 【過去記事】シネマクエスト「神取恭子のシネマコラム」

映画『his』が1月24日、いよいよ公開になる。

インタビューにつづき、1月16日に行われた名古屋舞台挨拶の様子をお伝えします。

司会をさせてもらって、二人がこの作品に挑み込めた思いが、たくさんの方に届けば良いなと素直に感じました。

上映後の舞台挨拶ですが、ネタバレに気をつけてレポートしているつもりです。

先入観を持たずに映画を観たい方は!ご覧になった後に読んでもらえるとより楽しめる内容だと思います!

―――上映後の(劇場での)舞台挨拶は初めてだそうですね?

宮沢さん「今回が初めてです。何回か舞台挨拶はやっていますが、ご覧になる前に僕たちが登壇するかたちだったので、初めてだよね?」

藤原さん「はい。感動が蘇りますね、「マリアロード」(主題歌)を聴くと。」

――本当にいい曲ですね。

宮沢さん「今日、季節くんはずっと歌ってるもんね?」

藤原さん「そうなんです。ずっと朝から。」

――じゃあ、せっかくなので…

藤原さん「いやいや、僕、歌下手なので歌えないです(笑)」

――残念!それでは名古屋の皆さんにご挨拶をお願いします。

宮沢さん「僕、名古屋に仕事で来るのは2回目でして、とても新鮮な気持ちでこの場に立っています。短い間ですが楽しい時間を過ごせたらと思っています。よろしくお願いします。」

藤原さん「さっき氷魚くんとも話していたんですけど、この映画に出演して、自分たちが正直に生きられるようになったんですよね。」

宮沢さん「うん、うん。」

藤原さん「渚を演じてから、自分が来たい服を着たり、花を部屋に飾ったり、自分の生活の中に彩を取り戻すことが出来ました。この映画に出演して良かったなと思っています。」

――それだけお二人にとって影響力のある作品だったんですね?

宮沢さん「そうですね。皆さんの顔を見たら、僕たちが参加させていただいた作品が皆さんに届いたかなと思ってほっとしています。」

――お客さんの反応は気になりますよね。お二人はプレッシャーを感じながらも精いっぱい演じた作品ですもんね。

宮沢さん「もちろん自信を持って作ったんですけど、この作品がどう世の中に出て行って、どういう形で皆さんが受け入れてくれるのかっていうのは、まだ公開していないのでわからないですけど…。皆さんいかがでしたか?」

(会場拍手)

藤原さん「今日は(上映後なので)ネタバレしていということで、内容の話もどんどん話していきますので。」

――では撮影でこのシーンは印象的だったとか、めちゃくちゃ楽しかったとか、逆に苦労したというシーンは?

藤原さん「全部印象的すぎて(笑)」

宮沢さん「僕が個人的にすごく好きだったシーンは、迅と渚と空ちゃんと緒方さんが鍋を食べるシーンですね。迅も渚も常に何かを抱えていて、背負いながら毎日を生きている中で、緒方さんといるとそのプレッシャーが和らぐというか、自分に少しだけ正直に素直になれる瞬間が生まれて、だから緒方さんとのあのシーンは特に好きです。」

藤原さん「空ちゃんが食べ過ぎちゃって、本番で食べられなくなっちゃったんだよね(笑)。段取りでパクパク食べて、本番には“おなかいっぱい!”って(笑)」

――空ちゃんとのエピソードも伺いたいですね。藤原さんは父親役は初めてですが、どのように歩み寄ったのでしょうか?

藤原さん「歩み寄りはしなかったですね。対等でした。」

宮沢さん「初日からすごく仲良かったよね?」

藤原さん「そうですね。友達みたいな。僕がいやらしい気持ちで歩み寄るのって、すぐわかるので。“君が僕のこと嫌いだったら嫌いでいいし、君が僕のこと好きだったら友達になれるし、僕は好きだよ”という感じでした。」

――一緒に撮影して何が心に残っていますか?

藤原さん「空が自転車で転ぶシーンは台本になかったんです。転んだ瞬間に大人3人が空に駆け寄るんですよ。それが僕にとっては感動的でした。撮影しているときは覚えていなかったんですけど、あんな風に使われているとは驚きだったよね?」

宮沢さん「僕たちが(完成した作品を)初めて観たときに、“わ!こういう感じだったんだ!”と思いました。ちょうど同じタイミングで3人が駆け寄るので、それが全部を物語っているように思いました。」

藤原さん「確かに、性別の違いとか、夫婦が離婚するとか、色んな関係性とか、色んな超えられない壁というものが、子どもが転んだ瞬間に全部一瞬で消えて、あの瞬間にちょっとした真実があったと思います。」

――作品のポスターを見ると、迅と渚の恋愛物語だと思って劇場に来られる方も多いと思いますが、観終わると本当に印象は違いますよね。

宮沢さん「違いますね。僕たちの人生に関わってくれている人間すべての物語ですね。やはり人間一人では生きていけないなって。どんなに自分をよく見せて、一人でも生きていけるって信じ込んだとしても、他の人の力で自分の人生も進んでいくんだなと思ったし、今回は迅にとっては渚や空や美里さんでもあって、皆に支えられて生きてるんだなって思いました。」

――この作品ですごく大きなものを受け取られたんですね。

藤原さん「僕は迅が緒方さんと鹿を撃つシーンがすごく好きで、先ほどのインタビューで、“一つの命を奪うことで迅が生きていこうという力をもらう、迅も自分で自分の命を奪ってしまいたいと思ったことがあったのかもしれないと”、氷魚くんが話していて、そうだよな~と思いました。」

――鹿を撃つシーンの迅の表情が好きだと、インタビューでもお話されていましたね。

藤原さん「渚も、迅に思いを伝えるシーンで“迅がいないと生きていけない”と言うんですけど、あのセリフって、死にたいと思った人間しか言えないと思うので、頼れるところが迅しかいなかったのかなと。」

――宮沢さん、藤原さんのお二人だからこそ、この映画が完成したんだなと改めて感じました。皆さんもうご存知と思いますが、岐阜県白川町での撮影はお二人でコテージに泊まっていたそうで、その中で、意外な一面やこういうところがあったから助けられたということはありますか?

宮沢さん「本当によくお話していますけど、季節くんは何も持ってきていないんですよ。10日間だって知ってたよね?」

藤原さん「あー、はい!」

宮沢さん「旅のしおりもらったよね?」

藤原さん「もらったよ。」

宮沢さん「バスタオルやドライヤーは無いって書いてあるのに、パンツ一枚にTシャツと歯ブラシだけ?」

藤原さん「そう、歯ブラシだけ。本はいっぱい持って行ったけどね。」

宮沢さん「持ってきてくださいっていうものを持ってきてほしいよね。」

藤原さん「今日初めて知ったんですけど、僕が氷魚くんの歯磨き粉を使っていたのがバレていたらしくて(笑)」

宮沢さん「それはバレるよ!だって携帯用の歯磨き粉で、僕は10日間もつだろうという量を持ってきているのに、4日目か5日目でもうほとんど残ってなかったから、これ使ってるな~と思ってましたね。」

藤原さん「“季節くん歯磨き粉使わないで!”って言えなかったんだと思うとちょっと切なくなりました(笑)」

――言えなかったんですか?

宮沢さん「言えなかったというか、まあ、いっか!と(笑)」

――お二人は割と役柄と似ている感じもありますね。

藤原さん「僕と氷魚くんは話せば話すほど正反対だね。」

宮沢さん「趣味も違うし、人間としてのタイプも違うんですけど、どこかで繋がっているんでしょうね。」

藤原さん「それが『his』だと思う。もし『his』で出会わなかったら交わらなかったと思う。」

宮沢さん「別の作品だったら、ここまで仲良くなっていなかったと思う。」

――はじめ一緒に10日間同じ部屋ですって言われたときは?

宮沢さん「絶対嫌ですよね(笑)」

藤原さん「会うの2回目でしたからね。」

宮沢さん「クランクインの前に衣装合わせでお会いして、2、3時間一緒に居て、次に会ったのは撮影初日だったので。」

――でも、この10日間がなかったら撮影はここまでうまくいかなかったかも、というのはありますか?

宮沢さん「ありますね。」

藤原さん「僕は氷魚くんと10日間暮らした後に、東京編で裁判のシーンの撮影があったんです。今泉監督からも、“東京の渚の顔は全然違う”って言われました。やっぱり、迅という存在がいないと、ここまで渚は変わってきちゃうんだなと思いました。美里さんといる時の迅とか、玲奈といる時の渚とか、全部顔が違うんですよね。人ってそうやって生きているんだなと感じました。」

――その表情の違いは皆さん感じ取れたんじゃないかと思います。そして、宮沢さんはご自身のお友達でLGBTQの方がいらっしゃるということですが、この作品がどのように届いたらいいなとお考えですか?

宮沢さん「この映画に参加させてもらって、この映画が答えではないと思うし、この映画が世に出ることによって現状が大きく変わるかって聞かれたら、たぶん変わらない。でも考えるきっかけになってくれたらいいなと。こういう人間が居て、当たり前というか、普通って何なんだろうって、普通なんてものが存在するんだろうかって、自分に問う時間が10分でも、それ以上だと嬉しいですけど、あると嬉しいなと思います。」

――藤原さんはご自身がLGBTQではないということで、演じる上で葛藤する部分があった仰っていましたが?

藤原さん「葛藤していましたね。今でも葛藤していますね。僕も氷魚くんも世間のニュースとかテレビとか色んな言葉に敏感になって、もしこの言葉を聞いたら迅は傷つくだろうなとか、センサーを自分の中で持つことができるようになって、そこは一歩成長したかなって。100%理解できない自分を責めるんじゃなくて、自分が26年間で培ってきた当たり前という価値観や自分のことも受け入れて、無理に自分の価値観を変えようとするんじゃなくて、こういう考え方もあるんだなという風に発見できただけでも、今は良しとするか、と折り合いをつけています。」

――この作品はとてもチャレンジングだったと思いますが、この役を受ける時にお二人とも“迷いはなかった”と口をそろえて仰ったのが格好良いなと思いました。

宮沢さん、藤原さん「(迷いは)なかったよね。」

宮沢さん「プレッシャーはありましたし、映画初主演というのもあったし、色んな意味で重圧を感じていたんですけど、それに勝る、この作品に参加できる喜びだったりとか、この時代に出来るという喜びがプレッシャーを全部打ち消してくれて、前向きに取り組むことができました。」

藤原さん「自分が無知だったということもあると思うんですね。今になってこの時の自分の価値観がいかに一方通行なものであったかと考えると心が痛いですね。」

――もうお時間が無いようです。最後にひとつだけ、お二人とも卵を割るのは得意なんですか?

宮沢さん「最後卵の話でいいんですか(笑)?(劇中で)片手で割らなければならなかったじゃないですか?でももともと僕は片手で割れなくて、猛練習をして、何パックも何パックも使って、映画のシーンのように卵料理ばかり並べて出来るようになって。出来るようになったのはいいんですけど、撮影に入ってから(失敗するシーンで)何回やっても上手く行っちゃうんですよね。何回もNGを出してしまって、練習しすぎてごめんなさいって言ったのは初めてでした(笑)」

――頑張ったのに(笑)!藤原さんは?

藤原さん「僕は料理は毎日作るので!」

――お!得意料理は?

藤原さん「卵焼きです(笑)!」

――それでは最後にご挨拶をお願いします。

宮沢さん「映画が完成して初めて上映後の皆さんの顔を見るということで、ちょっと緊張していたんですけど、皆さんの笑顔とすっきりした顔を見て嬉しく思います。公開は1月24日ですけど、ぜひ皆さんから“いい映画があるよ”と言っていただいて、2回でも3回でも観ていただけると嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!」

藤原さん「僕はこの映画がたくさんの人に愛されればいいなと思って、嫌いというのもひとつの愛情表現なので、無関心で映画館がガラガラなのが一番悲しいので、嫌われてもいいのでたくさん人に愛してもらえたらいいなと思っています。迅とか渚とか美里ちゃんとか、今でも白川町で生活しているんじゃないかと思っているんですけど、彼らのことを少しでも好きになってくれる人がいたら宣伝してほしいです。一緒に『his』を広めてください!」

(二人で顔を見合わせて)

宮沢さん、藤原さん「よろしくお願いします!」

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