ただただ好き。
ようやく『愛がなんだ』が劇場公開になった。
早くたくさんの人に観てもらいたかった。他の人の意見・感想を聞いてみたいのと、好きなセリフや好きなシーンについて熱く語りたかった。
テルコについて、マモルについて、葉子について、ナカハラについて、すみれさんについて。
私は東京国際映画祭(TIFF)と名古屋のマスコミ試写で2回鑑賞したが、まだ観たい。一人一人の表情を、感情を、もっとすくい取りたい。
シネマコラムvol.89に書きましたが、『愛がなんだ』には様々なご縁があって、撮影現場を取材させてもらい、TIFFのレッドカーペット取材に行ったら(成り行きで)オフィシャルインタビューをすることになり、さらに、今回初日舞台挨拶の司会もさせてもらった。
これだけ取材をしていれば思い入れが強いのは当然ですが、そういう理由とは別に、
私は、ただただこの作品が好きなのです。
角田光代さんの原作を今泉力哉監督が映像化したこと、そして岸井ゆきのさんや成田凌さんなどのキャスティング、すべて大正解!私はそう思う。
ご覧になったらぜひ感想教えてください。
今回は、4月19日に主演の岸井さん、今泉監督が登壇した初日舞台挨拶様子をお伝えします。(お二人のもうちょっとディープなインタビューの模様は次回!)
全員エキセントリック
名古屋で初日舞台挨拶が行われるのは、かなり稀なこと。
伏見ミリオン座が移転し、新館のグランドオープンだった同日、『愛がなんだ』がそのオープニング作品に選ばれた。
平日の朝10時15分からという早めの時間にも関わらず、客席は満席。
映画好きが集まる伏見ミリオン座らしく、ミーハーな雰囲気ではなく上質な映画を楽しみたいという空気が会場に漂います。
――オープニング作品に選ばれたことについて監督は、
今泉監督「名古屋市立大学出身で、卒業してからも名古屋に来る機会には前の伏見ミリオン座で何度か映画を観ていました。その劇場で自分の作品が上映されることは感慨深いですし、オープニングに選んでいただけたことも非常に嬉しく思います。」
――そして、いよいよ公開初日を迎え、岸井さんは、
岸井さん「本当に緊張しています。東京国際映画祭の時もたくさんの感想をいただいたんですけど、いよいよ作品が羽ばたいていくと思うとヒヤヒヤして、昨日はあまり眠れなかったです。でも、楽しみです!」
――公開前にご覧になった人の感想について伺うと、
今泉監督「バラバラですよ。自分がそういう映画を目指しているというのもありますけど、特殊な片思いの映画なので、賛否という意味ではなくて、“共感できる”とか、“そんな男やめておきなよ”という、いろんな意見が出る映画にはなっています。」
――原作は直木賞作家の角田光代さんの同名小説。監督が特に大切にしたことは?
今泉監督「角田さんの原作がめちゃくちゃ面白かったので、その空気を活かしつつ、生身の人間が演じることで変わってくる部分があるので。あと、一人称視点で主人公が語る小説なんですけど、それをどのように映画に取り入れるかを工夫しました。脇役は主人公のために存在するんじゃなくて、一人ひとりの人生があると思っているので、その辺りをより整えて作りました。」
――原作から付け加えたシーンもありますね?
今泉監督「旅行に行くシーンがあるんですけど、そのシーンはちょっと人数を変えたりしているので、映画を初めて観た方は、原作に戻ってもらって、ここはこういう改編があったのか、その理由は何なんだろうとか、そういう風に観てもらえたらなと思います。」
――主人公テルコを演じるにあたってどのようにアプローチしたのでしょうか?
岸井さん「原作が本当に面白かったので頭から離れなかったんですけど、後半は“これは今泉監督とみんなの作品”と思って、相談しながら作りました。」
――かなりイタイ片思いをしているテルコついて、“テルコのように猪突猛進に突き進んだことはないが、好きな熱量は共感できる”という岸井さん。他のキャラクターについては?
岸井さん「みんな結構エキセントリックなんですよ!普通じゃない恋愛をしているキャラクターが多くて、うーん、みんな微妙に違うんですよね。監督は共感できる人いましたか?」
今泉監督「成田(凌)さんと話していて、全部のキャラクターに自分がいるような気がするし、自分が演じたマモルにも共感できると言っていました。全員ダメなところがあって、弱さがある。江口のりこさん演じるすみれは、そういう人に強く言いそうなキャラクターだけど、そんなすみれも実は優しいし弱さもある。すごく面白いですよね。」
――テルコ役を岸井さんに演じてもらって良かったことは?
今泉監督「テルコは一歩間違うとイタイ女性になってしまって、女性から好かれない、ただ嫌われてしまうネガティブになりがちなキャラクター。岸井さんの明るさやキャラクターで映画は救われていて、そこを活かして撮れたと思います。」
焼き茄子と揚げ茄子
去年6月に撮影現場を取材した時のことも伺った。
――監督のOKがなかなか出ない撮影でした。
今泉監督「言い訳させてください。あのシーンだけですよ、あんなに粘っていたのは。他のシーンは感情や芝居で役者さんとやり取りするので、2、3回でOKするのが基本です。終盤のシーンだったので、感情じゃなく、動きとか瞬きとか些細なものまで指示しないといけなくて、自分もやったことが無いことにチャレンジしていたんです。そんなに厳しく無いですよ(笑)」
――岸井さんは撮影で印象深かったことは?
岸井さん「1カットで撮るシーンが多くて、カットを割っていても一度1カットで全部撮影するんですけど、それがすごく楽しかったです。最初の方のシーンで成田さん演じるマモルと居酒屋さんに行くシーンがあるんですよ。そのシーンは12回くらいやって…。」
今泉監督「何か、すごくやった人みないなイメージが!意外とやってたのか(笑)」
岸井さん「このシーンは色々あったんです。すごく朝早くて“焼き茄子”と“揚げ茄子”を間違えたり、微妙な間違いをたくさんしてしまって(笑)」
今泉監督「逆にそれを生かして繋がっているのでそこも注目してください。」
岸井さん「そうなんですね!こんなにやれることは無いから、成田さんと楽しくなっちゃって(笑)。監督は、お芝居の繋がり、例えば“さっき右手で持っていた”とかあまり言わない方なので、自由に何回もやらせてもらって楽しかったです。」
今泉監督「編集点の繋がりで厳しく言う方もいますけど、僕はどうでもよくて。それよりも役者さんの感情や芝居のやり取りが繋がるなら、繋ぐところで繋ぐから、それはこっちの仕事なので。」
――最後にメッセージを。
今泉監督「映画はもちろん撮影、完成があるんですけど、お客さんに観てもらうことで広がって、新たに生まれる感情があって、もう一つの完成だと思っているので、皆さんで育ててもらえればと思います。たくさん映画がある中で今日この時間この映画を選んでいただいてありがとうございます。」
岸井さん「本当に今日無事に公開を迎えられて嬉しいです。もし良かったらお友達にすすめてもらって、何度観ても楽しい映画だと思うので、この映画好きだなと思ってもらえたら嬉しいです。今日はありがとうございました。」