帰ってきた三木組
三木聡監督、5年ぶりの長編映画。
前作『俺俺』では主演の亀梨和也さんにロングインタビューをさせてもらったこともあり、とても印象に残っていたし、観れば観るほど深みにはまる世界観と闇と笑いが共存する面白い作品だった。
それ以来のオリジナル作品。しかもタイトルからして尋常じゃない三木ワールドの予感がプンプンしている。
三木組の俳優さん、ふせえりさんや岩松了さん、松尾スズキさん、そして麻生久美子さんも期待通りの奇想天外なキャラクターで出てきます。
阿部さん、吉岡さん曰く、稽古は別の場所でしていて衣装なども着ていないので、「麻生さんがあんな格好で出てくるとは思わなかった(笑)。」と、三木組ならではの現場エピソードをたっぷり話してくれました。
今回は“声帯ドーピング”した脅威の歌声を持つロックスター・シンを演じた阿部サダヲさんと、“声が小さすぎる”ストリートミュージシャン・ふうかを演じた吉岡里帆さんにインタビュー!
タコ!エピソード
――『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』という長すぎる個性的なタイトルの印象は?
阿部さん:今あまり言う人いないんでしょうけど、「○○しろ!タコ!」って。俺野球部だったんですけど、野球部の監督がそういう人だったんですよ。「当たってもいいから塁に出ろ!タコ!」って。だいたい「タコ!」がつく。だから懐かしかった(笑)。
吉岡さん:タイトルを初めて聞いた時、喝を入れられたような感じがして、「あ!もっとやろう!」って気合が入りましたね。この話が来たときは運命だなと思って、グジグジ悩んでないで、もっとしゃかりきにやろうって思いました。
――お二人は最近、「○○タコ!」と思った出来事は何かありますか?
阿部さん:自分に対してですけど、一昨日(10月18日)、「体の芯からまだ燃えているんだ」という曲のデュエットバージョンを生でお客さんの前で披露したんですけど、歌詞が出てこなかった!「ちゃんとしろ、タコ!」って思って、久しぶりに眠れなくなっちゃった。悔しくて!
――(グループ魂のボーカルでもある阿部さん)歌詞が覚えられないことはあるんですか?
阿部さん:ないです。ないです。リハーサルではちゃんと歌ってたんですよ。何ですかね。カッコつけちゃうんでしょうね~(笑)。お客さんの前に立つとね。
――格好良かったですよ。
阿部さん:本当ですか?でも悔しい。
吉岡さん:ね、実は私もミスがあったりして。悔しかったですよね。
阿部さん:一回勝負だからね、悔しかったね。
吉岡さん:私はさっきの舞台挨拶で、「最後に名古屋の皆さんにメッセージを」と言われたときです。名古屋に来ることがあまりないので、来られたことが本当に嬉しかったんですよ、なのに、へらへら笑っちゃって。「もっと気の利いたこと言いたかったのに!自分タコ!」みたいな感じです。
阿部さん:でもさ、こういう舞台挨拶をすごく上手くやって、「(キメ顔で)最高の映画です!」みたいなの嫌じゃないですか(笑)?
吉岡さん:笑!
阿部さん:「(キメ顔で)命がけでやってます!」みたいな、そんなのさぁ(笑)。後悔するくらいの方がいいよ。
初体験!三木ワールド
――今回の作品は恋愛面が後半で出てきて、三木監督の作品の中では珍しいのかなと思いますが、演じてみていかがですか?
阿部さん:“恋愛”と取るかどうか、ですけど、師弟関係のようでもあるし、シンという人に重ねると、妹のように見えているのかもしれないし、そんなに愛とか恋という風には僕は読んでいなかったですね。
――色々な捕らえ方でいいということでしょうか?
阿部さん:そう思いますよ。ロックですからね。(笑)。
吉岡さん:私もあまり恋愛とは思っていなくて、始めから壮大なギャグをやっているという風に台本を読んでいました。キスシーンも含めて。思い立ったら行動しちゃう人たちばかりの中で、私が演じたふうかは思い立っても動かない人間なので、観ているお客さんの中にそういう人がいたら、“やれよ!ちゃんと!”とか“一歩踏み出せよ!”みたいなメッセージをすごく強く感じられるかなと思います。“愛”の話ではあるかもしれないですけど、もっと“魂”の話という感じがしました。
――お二人が印象に残ったセリフや言葉はありますか?
阿部さん:タイトルの「音量を上げろタコ!」は印象に残っているし、言っていて楽しかったですね。あと、ドーピングして、発声練習して、「古いトランプは臭い、絶好調だ!」と言うセリフがあるんですけど、そこですかね。(笑)。
吉岡さん:三木さんの作品は宝物みたいなセリフだらけなので迷いますね。「いいの、いいの、ブライアン・イーノ」は気に入って、他の現場でも言ってました。あと、「勘違いは大事よ、大抵のことは勘違いから始まるわ。このまま終わりじゃもったいない。」っていうセリフは前向きでいいなと思いました。冒頭のKenKenさんのセリフも謎過ぎて好きです。
阿部さん:あれね。調べたけど出てこないんだよ。後で監督に聞こう。
吉岡さん:お客さんもあまり意味を考えたり、つじつま合わせようとしたり、伏線回収とかをせずに楽しんでいただけると嬉しいです。感じるというか。私も台本をはじめに読んだときは、「これってどういう意味ですか?」とか「どういう設定ですか?」って聞いたりしたんですけど(笑)。意味のないことを全力でやり、バカなことをするのが意味がある、というのは新しい発見でしたね。
――三木監督の現場で印象に残っていることは?
阿部さん:僕は初めてだったんですけど、ほぼ全シーン、撮影に入る前に稽古するんですよね。稽古場というか会議室みたいなところで、その時は皆さん扮装しないで私服でやっているので、それでも面白いのに、扮装するとまた凄いことになるから、それは面白かったですね。リハーサルがあって良かったなと思います。ほぼ台本どおり全員やっているし、アドリブみたいなのは無いもんね。
吉岡さん:まったく無いですね。
阿部さん:“笑い”ってだんだん慣れてくると、なあなあになっちゃうんですけど、間とか、読み合わせたときの感じとか、最初に感じた面白さみたいなのを大事にする監督だから。扮装とかも前もって見なくて良かったですね。
――阿部さん演じるシンと吉岡さん演じるふうかが出会うシーンの撮影は大変だったそうですね。
阿部さん:あれは初日で深夜だったんですけど、あんなに水が降ってくるとは知らなかったんですよ。その中で監督が、「口を開いて痙攣してくれ」って言ったんですよ。でもすごい量の水が降ってくる中で口を開けていると溺れるじゃないですか。溺れて死にそうになってるんだけど、カットをかけないんですよ。面白かったんでしょうかね(笑)。あれはキツかったです。ただ苦しがってるだけです、芝居じゃないです、あれは(笑)。
――監督の「ここまでするとは!」というシーンは他にはありますか?
阿部さん:僕がギターを投げて弁償するって言って、ふうかが驚いて家の中をゴロゴロゴロゴロするシーンは、最初、三木さんがゴロゴロ転がるんですよ、「こうやってやるんだ」って。“え?こんなに転がるの?”と思ったら、吉岡さんが本当にやっていたからすごいな~と思って(笑)。
吉岡さん:そうですね、結構長時間転がさせてもらって(笑)。
阿部さん:痛いでしょ?
吉岡さん:終わったころに変な痣がいっぱいできていました(笑)。
阿部さん:あと、ここまでやるっていうか、バイクのシーンにすごくこだわってたよね。そんなにこだわる?っていう(笑)。
吉岡さん:監督はバイクが好きで、バイクが動くか確認する作業をめちゃめちゃリアリティだそうとするんですよ、急に!ずっとこんなファンタジーで現実離れした世界観でやっているのに、急に、「ここはオイルのにおいを嗅いだりするから」とか。
阿部さん:「残りのガソリン揺らして」とか(笑)。
吉岡さん:順番を間違えると「違う!」って(笑)。「一回においを嗅いで、そのあと揺らすんだよ。そうしてもらわないと困る」、みたいなことがありましたね(笑)。
音量を上げて観ろ!
インタビューは終始、撮影中の面白いエピソードを聞かせてもらいましたが、
『音タコ!』は音楽映画でもあります。
冒頭のライブシーンでシンが歌う曲「人類滅亡の喜び」はめちゃくちゃ格好いい!
作詞・いしわたり淳治さん、作曲・HYDEさん。
ふうかが歌う「体の芯からまだ燃えているんだ」はあいみょんさんが提供しています。
ふうかの声が小さすぎる弾き語りは映画館でも「え?何?」と耳に手を当てたくなりますが、シンと出会ってどう成長するのか笑いながら見守ってください。
このインタビューでも舞台挨拶でも吉岡さんが仰っていましたが、
「ツッコミを入れながら観るのが楽しい作品」
確かに、海外では映画をもっとエンターテインメントとして、というよりアトラクションのように楽しんでいるのは羨ましいなと思います。
笑うのも泣くのも控えめに、まして喋るなんてご法度な、日本らしい鑑賞も作品によっては大切ですが、もっと自由な上映会が増えるとライブみたいでワクワクしますよね!劇場さん、色々企画してください!