5月5日(金)公開の映画『銀河鉄道の父』で宮沢賢治の父親・政次郎を演じる役所広司さん、成島出監督が、公開を前に名古屋の舞台挨拶に登壇した。
宮沢賢治を支えた父・政次郎と家族の知られざる物語
―― 宮沢賢治の父・政次郎を演じた役所広司さん、成島出監督、名古屋の皆さんにご挨拶をお願いします。
役所さん「名古屋の皆さん、こんばんは。公開に先駆けて、ゆっくりこの映画を楽しんでください。」
成島監督「名古屋の皆さん、こんばんは。この映画を監督しました成島出です。この前も役所さんとご一緒させてもらった『ファミリア』と名古屋ではお世話になりました。今回はお隣ですが岐阜で撮らせていただいて、東海地方には縁が深く、こうやって上映できることを嬉しく思っています。短い時間ですが楽しんでいってください。」
―― 東海地区には本当にご縁があるりますね。
役所さん「そうなんです。撮影でお世話になっています。監督も僕も名古屋が大好き!」
成島監督「『山本五十六』も明治村でずっと撮影させてもらって、愛知県庁や名古屋市役所でもたくさん撮らせていただきました。」
客席から拍手👏
―― 監督が着ていらっしゃるTシャツは?
成島監督「これは現場でプレゼントしたスタッフTシャツです。」
役所さん「監督が作って、スタッフ、キャストにプレゼントしてくれたんです。監督が着るなら、僕も今日着て来ればよかったです(笑)。」
―― 成島監督は、宮沢賢治の映画を以前から撮りたかったそうですね?
成島監督「そうなんです。ただ、賢治さんは本当に複雑怪奇なとろろがある人で、なかなか映画にするには一筋縄ではいかないんですが、この原作「銀河鉄道の父」は本屋さんで、あっ!と思って手に取って読んだすごく面白くて。皆さんご存知かもしれませんが、政次郎さんはものすごく厳しい人だったということで有名で、定説だったんですけど、この原作は全く逆というか、親バカで、明治の時代にイクメンのはしりのような人。すごくユーモラスでチャーミングで、これは面白いなと思って、ぜひ映画にしたいと思ったのが最初でした。」
―― 役所さんは宮沢賢治についてはどんなイメージをお持ちでしたか?
役所さん「恥ずかしいですが、本当に詳しくなくて、「銀河鉄道の夜」と「雨ニモ負ケズ」という詩くらいしか知らなくて、今回この映画に携わって、原作や色々な資料を読ませてもらって、宮沢賢治の文学の素晴らしさを、やっと、遅ればせながら感じているところです。」
―― 政次郎さんについてはどんな印象を受けましたか?
役所さん「厳しい顔をしていますけど、隙だらけの親父で(笑)。たぶん自分では大黒柱として、子どもの教育もちゃんとしないといけないと思って眉間に皺を寄せているんですけど、妻や子どもたちは、そういう隙だらけな姿をみて、かえって心配してくれているような父親なので、監督のおっしゃっていたユーモアや愛嬌はそういうところから出ている様な気がします。」
―― 監督は政次郎さんはぜひ役所さんに、というお気持ちだったのでしょうか?
成島監督「はい。原作を読んだときに、お父さんは役所さん、息子・賢治は菅田くんをイメージしました。どうしてもこの二人でやりたいと。途中から、(妹・トシ役の)森七菜ちゃんや家族が決まっていって、本当に理想的なキャスティングができたなぁと監督としては幸せでしたし、現場の皆さんが奏でるハーモニーがとても素晴らしくて、本当に幸せな現場でした。」
―― 役所さんは、菅田さんとは初共演ですか?現場ではどのような会話をされていたのでしょうか?
役所さん「そうです。家族は田中泯さん以外は初じめての方ばかりでした。みんな花巻弁の勉強で(笑)。コロナの対策として距離を取りながら座っているんですけど、そうやって座っているだけで何となく、家族の雰囲気ができあがってきたと思います。」
―― 監督は役所さん演じる父親と菅田さん演じる賢治の姿はどのようにご覧になっていたのでしょうか?
成島監督「途中、大げんかになったりするんですね、賢治が必死な命がけな感じで、それに対して命がけで向かっていく政次郎さん。その二人が、晩年和解して、何て言うんでしょうか、ほのぼのした親子というのは、僕はすごく好きなシーンです。激しいシーンも好きですけど、両方ともすごく好きで、この振り幅が、二人の親子でこそと思っています。」
―― 娘・トシを演じた森七菜さんはいかがでしたか?
役所さん「言ってみれば一番しっかりした子で、長男の賢治が自由奔放ですから、影の大黒柱。もちろん政次郎さんは自分が大黒柱だと思っていますけど、実は森七菜ちゃんが一番しっかりしている。彼女はキャンペーンの時に、自分はその要素はないと言っているんですけど、やっぱりしっかりしているんですよ。監督が森七菜ちゃんの芯の強さを見抜いてキャスティングしたんだと思います。」
―― どのような演出をされたのでしょうか?
成島監督「これは時代劇で、明治から大正、昭和初期の話なんですけど、そんなに細かい演出はしていないです。今の気持ちに通じる、賢治のどこに向かっていいのか、自分が何者なのかわからないという叫び、トシの一生懸命あがいて、人の為になりたいというのは、今日も若い女性に方がたくさんいらっしゃっていますけど、トシと同じ気持ちで観られると思うし、トシも時代劇と思わないで演じてほしいとお話ししました。」
―― この作品は岐阜県の恵那市で撮影されました。どのような印象ですか?
役所さん「僕は以前も映画の撮影でお世話になったところで、今回の撮影で伺った時には地元の婦人会の皆さんがすごい垂れ幕と一緒に五平餅をつくってくれました。撮影中もエキストラの方にお世話になりましたし、色々な差し入れもいただいて、この映画を支えてくださって、恵那市の皆さんに本当に感謝をしています。以前は『キツツキと雨』という作品で、ほとんど森の中の撮影だったので、今回はこんないい場所があるんだと思いました。」
成島監督「本当に素晴らしいところです。今、古い町で映画を撮るのが本当に大変で、日本映画の宝に必ずなりますから、どうか50年100年保存して、そうしたら撮影でたくさんの人が来るようになると思うと話をさせてもらいました。」
―― 上映前ですが、おすすめのシーンなどはありますか?
役所さん「ご覧になる前のお客さんの前ということをつい忘れて、内容を喋ったりして、よく怒られるんですよ(笑)。でも、この宮沢家の家族がとてもいいアンサンブルで、それぞれがそれぞれの役割をちゃんと果たしていて、親も子もお互いのことをとても大切にしていて、愛情と絆がとてもよく表現されていると思います。先ほど監督も言いましたけど、賢治もやっと農業と文筆活動を落ち着いてやっていて、庭先で賢治と父親がお茶を飲みながら話すシーンがあります。これは父親にとっても賢治にとっても一番幸せな瞬間だったような気がします。」
成島監督「名古屋の皆さんにぜひお願いがあります。物語の舞台の花巻の方々は割と皆さん笑わないんですよ。後半はすすり泣いたりする声が聞こえるんですけど(笑)。劇場って不思議なもので、クスクスと笑うと、笑っていいんだ!と広がるものなので、今日はリラックスしたご覧いただきたいです。できればそれを”笑えました””楽しかった”と広めていただけると嬉しいです。有難いお言葉をたくさんいただいていますが、どうしても”泣けた”という感想が多いので、政次郎さんのチャーミングなところを応援してもらえたら嬉しいなと思っております。」
役所さん「みんなに振り回されますからね(笑)。監督、何でしたっけ?”はじめ笑わせて…”?」
成島監督「”おもろうてやがて悲しき(鵜舟哉)”ですね。」
役所さん「その”おもろうてやがて悲しき…”というものの王道です。強要はしませんけど、可笑しかったら、どうぞ声に出して笑ってください。」
―― 最後にメッセージをお願いします。
成島監督「今日は(撮影地の)岩村からも来ていただいて、若いお客さんもいらっしゃって、すごく嬉しく思います。これが全国に広がってくれたら嬉しいです。偉人ものを作るつもりではなくて、今に通じる家族の物語なので笑って泣いて、賢治の作品のようにこの作品の心のどこかにもらえれば、我々は幸せだなと思っております。」
役所さん「今日は宮沢家の家族たち、菅田くんや森七菜ちゃん、他の家族も名古屋の皆さんにご挨拶したかったと思いますが、皆忙しいので、一番暇な僕だけ来させてもらいました(笑)。本当にここら温まる映画になっていると思います。今日は本当にありがとうございました。」
映画『銀河鉄道の父』を解説!
映画『銀河鉄道の父』とは?
今もなお世界中から愛されている宮沢賢治。彼は無名のまま37歳の若さで亡くなった。彼の死後も、その才能を信じ続けた家族が、賢治の作品を諦めずに世に送り続けたため高い評価を得られるようになったと言われている。
そんな賢治は「ダメ息子だった!」という大胆な視点から、賢治への無償の愛を貫いた宮沢家の人々を描き、第158回直木賞を受賞した「銀河鉄道の父」(門井慶喜 著)。歴史のスポットライトの陰にいた賢治の家族への丹念なリサーチを実らせ、「見たこともない賢治の物語」「深い愛に涙が止まらない」と絶賛された傑作小説が映画化された。
メガホンを取るのは、『八日目の蟬』『いのちの停車場』の成島出監督。キャストには、宮沢賢治の父・政次郎を役所広司。厳格な父であろうとするが、息子への愛ゆえに振り回される父親をユーモラスに大らかに演じている。賢治に扮するのは菅田将暉。まだ何者でもなかった頃の賢治が抱える迷いや不安、葛藤を繊細に表現し、現代を生きる若者の心にも響く演技をみせている。聡明な賢治の妹・トシには森七菜、賢治の祖父・喜助を田中泯、賢治の母・イチを坂井真紀が演じている。
また、物語の舞台の中心となる「宮沢家」のシーンは、岐阜県恵那市岩村町の『木村邸』、『勝川家』で撮影された。
木村邸 https://iwamura.jp/tourism/s02-2
勝川家 https://iwamura.jp/tourism/s02
映画『銀河鉄道の父』ストーリーは?
宮沢賢治の父・宮沢政次郎。父の代から富裕な質屋であり、長男である賢治は、本来なら家を継ぐ立場だが、賢治は適当な理由をつけてはそれを拒む。
学校卒業後は、農業や人造宝石、宗教と我が道を行く賢治。政次郎は厳格な父親であろうと努めるも、賢治のためなら、とつい甘やかしてしまう。やがて、妹・トシの病気を機に、賢治は筆を執るも―。
公式HPより
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