映画『冬薔薇(ふゆそうび)』伊藤健太郎”阪本監督の老後は任せて”?!名古屋舞台挨拶 詳細レポート✍

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©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

現在公開中の映画『冬薔薇(ふゆそうび)』主演の伊藤健太郎さん、阪本順治監督が登壇した名古屋舞台挨拶の様子を「シネマナ」が詳細レポート!

阪本監督が伊藤さんに当て書きしたという脚本制作秘話や、座長としての伊藤さんの佇まいを阪本監督が絶賛する場面も!

映画『冬薔薇(ふゆそうび』を紐解く

これまで数々の社会派作品を送り出してきた阪本順治監督。

60代に入り、ますます旺盛な創作意欲で挑んだ今作、映画『冬薔薇(ふゆそうび)』は伊藤健太郎さんのために書き下ろしたオリジナルの作品だ。

ストーリーは…

ある港町。専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳(伊藤健太郎)。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男だ。両親の義一(小林薫)と道子(余貴美子)は埋立て用の土砂をガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ましながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らぬ人物のものだった……。

本作のシナリオを書き下ろすにあたり、阪本監督は伊藤健太郎さんに数時間かけて話を聞いたという。

生い立ちや家族や友人との関係、仕事観。そして順風満帆だった役者人生を暗転させた過ち、その後の生き方について。

舞台挨拶で阪本監督は何度も言っていた。

本人とはかけ離れた役」「ファンに怒られるじゃないかと思いながら書いた

伊藤健太郎という俳優がこれまで見せてこなかった表情が見られる。

”虚栄心””不安””軽薄さ””孤独”…。身勝手な振る舞いで容易に人を傷つける一方で、親の愛情に飢えた寂しさを滲ませる。

伊藤さん本人は、脚本を読んで「淳の生き方が他人とは思えなかった」と話している。

阪本監督に話したこれまでの経験や、かつて思っていたことが淳の役柄にところどころ反映されていて、「すごく感情移入しやすかった」「淳の行動、口にする言葉の一つひとつが腑に落ちる感覚」と。

阪本監督が描く、心のどこかに「欠損」を抱えた人物像が体現されていた。


俳優としてゼロに戻り「芝居ができる幸せをかみ締めた」という伊藤さんの脇を固めたのは、日本映画界を支える実力派ぞろい。

淳の父親でガット船「渡口丸」の船長・義一を演じたのは、小林薫。会社の事務を取り仕切る母親を余貴美子

「渡口丸」の乗組員には、阪本組常連の石橋蓮司伊武雅刀笠松伴助

淳が所属する不良グループのリーダー美崎を永山絢斗、兄貴分的な存在の玄を毎熊克哉が演じる。

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS
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伊藤健太郎&阪本順治監督「もう身内みたいなもの」?!

名古屋駅前のミッドランドスクエアシネマで行われた舞台挨拶はチケット完売。

上映前の舞台挨拶ということでネタバレなし。

阪本監督と伊藤さんの信頼関係が伝わる和やかなトークを詳細レポートします✍


―― 名古屋の皆さんにご挨拶をお願いします。

伊藤さん「本日はお集まりいただき、本当にありがとうございます。伊藤健太郎です。こうして名古屋で『冬薔薇(ふゆそうび)』を観ていただける日がきて、非常に嬉しく思っております。今日は短い時間ですが、楽しい時間を過ごせたらなと思っております。よろしくお願いします。」

阪本監督「…無理にこっちを見なくてもいいですよ。声だけ聞いてもらって(笑)。健ちゃんとの舞台挨拶もこれで8回目なので、今日から健ちゃんでいいかと思って。俳優というのは素晴らしい職業で、常に他者のことを考え続けなくてはいけない。一般社会でも他者に気を使うということはあっても、他者になりきるとか、他者を考え続けるということはめったにないこと。今回の役柄は健ちゃんとは程遠い役柄だったと思いますが、その自分とは程遠い他者を演じ切ることで、これから一気に飛躍してほしいなと思って書いた役柄です。たぶん怒っている人もいると思うんですけど…いない?良かった(笑)。」

―― 名古屋はお久しぶりですか?

伊藤さん「そうですね、通り過ぎることはちょこちょこありますけど、降りたのは久しぶりですね。伊勢の方におばあちゃんの家がありまして、乗り換えでよく名古屋には(笑)。嘘です!ちゃんと降りて、名古屋コーチンとかひつまぶしとか大好きです!」

―― 一年前に初めてお会いしてからお互い印象は変わりましたか?

伊藤さん「はじめてお会いした時は、正直ちょっと怖い部分はあったんですけど(笑)。そこから監督と2時間お話をさせていただいたんですけど、怖かったのは会議室に入ったその瞬間だけで、その後はすごく安心させてもらっていますし、信頼しています。今日の舞台挨拶で皆さんお分かりになると思うんですけど、非常に面白い方で、そう意味では印象が変わった部分ではありますね。」

阪本監督「最初会議室に入った時は明らかに僕を恐れているのはわかりました(笑)。2時間じっくりプライベートな話をして、それは外には漏らさないという約束の元で質問させてもらって、それからこうやって出来上がってキャンペーンなどで取材を受けて、当初垣間見られた恐れはなくなったと感じています。さっき健ちゃんが「監督の老後は僕が見ます」って言ってくれたので(笑)」

伊藤さん「もちろんです(笑)!」

阪本監督「もう身内みたいなものです(笑)」

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

―― その2時間で主人公・淳のイメージが作られたんですね?

阪本監督「コロナで世の中の閉塞感とか、断絶とか、生身で感じるころだったので、本来は希望を与えるような映画にしなきゃいけなかったんですけど、僕自身の生理的な気持ちがこういう物語を紡いでしまった…。”当て書き”となっていますけど、僕が考え出したフィクションで、伊藤健太郎くんがやるという前提で顔や声色を思い浮かべて書いただけで、冒頭に言ったように、彼とはかけ離れている役をあえてやってもらおうと思いました。」

―― 伊藤さんはクランクインの日はすごく緊張されていたそうですね?その時の自分に声をかけるとしたら?

伊藤さん「そうですね、もうちょっとお前リラックスしな!ですかね(笑)。すごく久しぶりの映画の現場というのもあって、緊張という言葉では片づけられないくらい、自分の中では不思議な感情でした。前日も結構ドキドキしながら何回も何回も台本を開いてしまうみたいな。でも初日現場に入って、公私ともによく会っている(従兄弟の貴史役の)坂東くんと最初のシーンが一緒だったので、そこでは少しリラックスできました。あとは、阪本組ならではの温かみのある現場ということもあって、余計な不安要素とか緊張感みたいなものは、ある程度は保ちつつ、要らない部分は削ぎ落せたかなと思いますね。」

阪本監督「偉そうですけど、29本目の映画で、僕自身が初日に慣れたかというと、いつまでも慣れなくて、僕自身も緊張して声が上ずって、”よぉ~ぃ、スタート!”って(笑)」

伊藤さん「そんなことないですよ(笑)。その後にお話をさせていただいて、まだまだ初日に緊張されることがあると伺って、監督でもそういうことがあるなら、自分は当たり前だなと思いましたね。」

阪本監督「僕ね、”よーい、アイ!」って言うんですよ。”I LOVE”の”愛”。気持ち悪いでしょ?気持ち悪いよね(笑)」

伊藤さん「めっちゃいいですよね!美術の原田さんがTwitterで言っていたのかな?それで知って、だから阪本組って愛に溢れているんだって!”よーい、アイ!”ていうのが僕は好きで、いいなぁと思っています。」

―― 伊藤さん演じる淳の両親役は小林薫さんと余貴美子さんです。お二人との共演はいかがでしたか?

伊藤さん「お二方とも僕がお芝居を始める前からスクリーンで観させてもらっていた方だったので、最初お会いした時は”おお~”と思いましたし、それより前に台本でお名前を見た時から”こういう諸先輩方とご一緒させていただくんだ”ということですごく興奮していましたけど、実際お会いして挨拶させてもらった時もすごく自分と目線を合わせてお話をしてくださる方々。薫さん、余さんに限らず、ご一緒させていただいたキャストの皆さんそうでした。こんなにも凄い人たちなのに、こんなにも物腰柔らかく自分に接してくださるんだ、と懐の大きさを感じさせていただきました。」

―― 映像の他にも音楽が印象的な作品ですね?

伊藤さん「僕ら演じている人たちや現場の人たちはその場面でどんな音楽が流れるのか、その時点ではわからないのですけど、僕は映画音楽が好きなのでいつも気になっていますね。今回音楽があることによってすごく捉え方が変わった部分があったので、やっぱり映画音楽ってすごいなとこの作品で改めて気付きました。」

阪本監督「音楽の安川午朗さんは、ピアノで作曲するので、ピアノ一本でいきましょうかという話をしました。主人公含めて他の人たちも、寄る辺なき人たちという空気が漂っているので、映画全体の雰囲気にシンプルなピアノが良いんじゃないかなと思いました。」

―― 主人公・淳はとても難しい役だったのではないかと思うのですが、いかがでしたか?

伊藤さん「そうですね。すごく難しかったです、やっぱり。演じたことがないキャラクターの役だったし、作品でもあったので、作品の中での淳の存在の仕方みたいなものを模索しました。一番気を付けていたのは、淳は主人公ではあるんですけど、出ずっぱりの役ではないんですよ、群像劇なので。だけど、話の話題の中心にはいつも淳がいるので、割と前半の早い部分で、淳はこういう人なんだよと印象づけたいな思っていましたね。映画の冒頭で淳のダメなところが見えるシーンがたくさんあると思うので、そこのダメさは印象に残るように考えました。そこで淳を理解してもらえっておけば、淳が居ないシーンでも存在感として記憶の中に残れるかなと思って意識して演じましたね。」

―― 監督が脚本を書く上で心がけたことは?

阪本監督「先ほども言ったように、皆さんが元気になるような映画という選択肢は僕にはなかった。堕ちていく人物像があって、健太郎くんが今までやってこなかった、或いは、求められてこなかった役を満載して、チャレンジをしてほしいという思いで当て書きをしました。書きながら、ファンの人怒るかなぁ…と3秒くらい考えましたけど、きっとわかってくれると思ったので。現場ではしっかり座長として振舞ってくれて、皆が一枚岩になったので、役柄とは別にね、映画人としてこれから次々と活躍されると思っているので、私は食わしてもらえると…」

伊藤さん「任せてください(笑)」

―― 座長として出番のないときも現場にいらっしゃったそうですね?

伊藤さん「作品の温度感は違いますが、現場自体はすごく温かかったし、スタッフ、キャストの皆さんとも仲良くさせてもらって、すごく楽しかったですね。あと、1ヵ月間泊まりきりだったんですよ。ホテルで一人でいる時間も淳を演じる上では必要でしたけど、あまりひとりの時間が長すぎるとおかしくなっちゃうんじゃないかと思って。現場でみんなで話したり、やれることがあったらやったり、そんな過ごし方をすることで、淳も保ちつつ伊藤健太郎も保っていた感じですね(笑)。」

―― それでは最後に、これからご覧になる皆さんにメッセージをお願いします。

阪本監督「他者を演じていくことで、他者の人生をなぞっていくわけで、そういう誰か自分じゃない人生を何百、何千と過ごして、石橋蓮司さんや小林薫さんのように、健太郎くんも、あ、健ちゃんもなってほしいし、何十年か後に石橋蓮司さんみたいな顔つきになってほしいと思います。嫌?」

伊藤さん「健ちゃん頑張ります(笑)。今日はこんなにたくさんの方にお集まりいただき嬉しく思っております。これから上映ということで、すごくドキドキするんですけど、あの時自分ができる淳をすべて力を出し切って演じさせてもらいました。ここに来てくださった皆さんそれぞれ受け止め方が違う作品になっていると思うので、どこかのキャラクターに思いを寄せてもらってもいいですし、俯瞰でストーリーを見てもらってもいいですし、何かしら刺さるものがあったら嬉しいなという思いで作らせてもらいました。ぜひ楽しんでお帰りいただきたいです。本日はありがとうございました!」

©2022「冬薔薇(ふゆそうび)」FILM PARTNERS

阪本監督作品らしい、ある町の片隅の…私たちの隣にありそうな歪が描かれています。

人それぞれの足りなさや、それ故の微かな愛しさの描写が余計に心にグッとくる。

監督は「希望がない」と仰っていましたが、「それでも希望を持ちたい」と思えるのが阪本監督の作品の好きなところです!

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