全国順次公開中の映画『遠いところ』🎥 あまりにもリアルに描かれた沖縄に暮らす少女の姿…目を逸らすべきでない現実を目の当たりにするだろう。貧困と暴力の連鎖をどう止めるべきか…問題を投げかける話題作だ。
8月19日(土)、主演の花瀬琴音さんが愛知県刈谷市にある刈谷日劇で行われた舞台挨拶に登壇した🎤司会と取材をさせてもらったので詳細レポートします。
主演・花瀬琴音さんが刈谷日劇で舞台挨拶🎤
6月9日の沖縄での先行公開を皮切りに、7月7日から全国で順次公開している映画『遠いところ』。
第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門に日本映画として10年ぶりに正式出品され、上映後にはスタンディングオベーションで喝采を浴び、第23回東京フィルメックス コンベティション部門では観客賞を受賞した本作。
今回、夫のマサヤと幼い息子の健吾と3人で暮らし、キャバクラで働く17歳の主人公アオイを演じた花瀬琴音さんが訪れたのは、愛知県刈谷市にある刈谷日劇。地元の方のみならず、多くの映画ファンが足しげく通うミニシアターだ。
14時20分ごろ、上映後のお客さんの前の登場した花瀬さん。主人公・アオイとはかなり印象の異なる朗らかな花瀬さんに客席からは驚いた表情も見受けられた。
花瀬さんが演じたアオイは沖縄で生まれ育った17歳の少女。しかし花瀬さん自身は東京生まれ東京育ちだ。「撮影前に一か月半、沖縄で暮らして方言を習得しました」というが、ナチュラルすぎる沖縄弁は現地の方と見まごうほど見事だった。
映画『遠いところ』を2度3度 鑑賞する方へ ※ここからはネタバレあり
ここからは、映画をより深く楽しむために、花瀬さんに改めてインタビューをした内容をお伝えします。
2度3度ご覧になる方への花瀬さんが注目してほしいポイントについてなどを伺いました。
※まだ本作をご覧になっていない方は、ご覧になった後で閲覧ください。
主演・花瀬琴音が語る、隠れたおすすめポイントは?
細かなアドリブがたくさんあったいう撮影現場。とくにアオイと息子の健吾との会話シーンについてはその場で生まれたものが多く、ひとつひとつに注目してほしいと花瀬さんは言う。
健吾を演じた長谷川月起くんに合わせて自然な会話が繰り広げられているそう。
アオイと健吾がアパートに帰ってきて、健吾がアンパンマンのお菓子を見つけるシーン。健吾が「いえーい!」と手を上げ、アオイが「それどこで見つけたの~?」と言う、何気ない母子の日常を切り取ったような、この映画の中では束の間の心の平穏を味わえるひとコマだ。このようにほとんどが、アオイと健吾であり、花瀬さんと月起くんの自然な会話が撮影されていたのだそう。
その他に、キャバクラに警察のガサ入れがあり、アオイたち未成年のキャバ嬢が逃走するも警察に捕まってしまい。警察署で女性警官に半ば呆れられ怒られながら、アオイが変顔で写真に映ろうとするシーンについて。花瀬さんは渾身の変顔を披露し、監督もスタッフも笑いながら楽しく撮影が行われたそうだが、いざ公開してみると誰も触れてくれず寂しい…と本音を漏らした。
私も記憶ないシーンで、花瀬さんに教えてもらって実はとても重要だなと思ったのは、マサヤが警察に捕まってアオイが三角座りをしているシーン。携帯電話がアップになり、そこにはマサヤと2人で映っているプリントシールが挟まっているそう。
作品を観た多くの人が ”マサヤと早く別れればいいのに!”と思ってしまうような男だが、キャバクラ同様、マサヤもアオイにとってかけがえのない居場所。17歳の少女とって簡単には手放せないものなのだ。
沖縄で大ヒット中の『遠いところ』お客さんからの意外な感想とは?
沖縄が舞台の作品ということもあり、6月に先行公開され、2か月が過ぎても多くの人が鑑賞し話題となっている本作。
その中で花瀬さんがお客さんからもらった感想でこんなものがあったそう。
「私も同じ境遇で、アオイが子どもを早く作りたがる理由がわかります。私は母親の愛情をもらえなかったので早く自分の子に対して愛情を注ぎたかった。早くお母さんになりかった。」
花瀬さんも自分なりにアオイが若くして子どもを産んだ理由を考えて演じていたそうだが、この女性のような視点がとても印象的だったという。
私自身は、”そんなに早く子どもを作るから苦しい状況になるのでは?”と自分の価値観を押し付けた見方をしてしまっていた。アオイに対して歩み寄る視点がなかったと気づく貴重なエピソードを聴かせてもらった。
このガサ入れのシーンで花瀬さんが特に好きだというのが、ガサ入れの情報をお姉さんのキャバ嬢がアオイたち未成年組にこっそり伝えるチームワークの良さだそう。
確かにあのシーンはドキドキするとともに、アオイにとってキャバクラはただお金のために働くだけの場所ではなく、自分を受け入れてくれる居場所なんだと思わせる大事なエッセンスが込められている。
沖縄での撮影はゲリラ的に?
本作の沖縄のコザや那覇の歓楽街でも多く撮影されている。
那覇市松山の歓楽街でアオイと海音がケンカをするシーンは、事前に許可は得ているものの、街の人たちが行きかう中で撮影されたそう。(現地のエキストラの方の協力も)
アオイと親友の海音が本音で激しくぶつかり合うシーンだけに、かなり白熱していたようで、撮影と知らない人が警察に通報してしまうほどだったという。
長回しで二人を追いかけ追い抜くようなカメラワークで、観る人も心のざわめきが抑えられなくなるシーンだ。
アオイは海音に苦言を呈されながらも、深い沼へとハマっていってしまう。
貧困家庭を救済する様々なセーフティーネットがあることを知らないのか、知っていても使わないのか…。花瀬さんは「アオイは自分の居場所を守ることに精一杯。それを壊してほしくないから警察にも行かないし、誰にも助けを求めない」と話した。
脚本も手掛けた工藤将亮監督は、『遠いところ』のために4年間取材を続けていたそう。
全部本当にあったことが脚本に盛り込まれていてフィクションはないという。
その上、撮影は台本通りではなく「アオイの気持ちを優先して臨機応変に対応してくれた」「この後どこを歩きたい?どこに帰りたい?誰に相談したい?」と工藤監督は常に委ねてくれていたと花瀬さんは当時を振り返った。
希望か?絶望か?観る人によって違うラストシーン
親から子への負の連鎖が描かれる本作。アオイの日常がどんどん壊れていく様子を見ながら、何とか止める方法はないか?と考え胸が締め付けられる。
花瀬さんはラストシーンについては観る人によって捉え方が違うと話す。
「夕日だと見る人が多くて、夕日に見える人は絶望。朝日だと理解する人は希望を見てくれていますね」
映画『遠いところ』を解説!
映画『遠いところ』とは?
映画『遠いところ』が描くのは一人当たりの県民所得、こどもの貧困率、非正規労働者の割合、ひとり親世帯の比率、若年層出産率のいずれもワースト・ワンとなっている沖縄の現実と、その現実に翻弄される 17 歳のヒロインの生き様です。しかし、この映画はそんな沖縄の現状をアピールするだけの映画ではなく、日本中のどこでも今まさに起こっている、次世代に残してはいけない問題だ。
主人公アオイを演じるのは、昨年『すずめの戸締り』に出演で話題を呼び、本作が映画初主演となる花瀬琴音。東京出身の彼女が、撮影の1ヶ月前から現地で生活し、“沖縄で生まれ育った若者”アオイを体現している。アオイの友人、海音には映画初出演となる石田夢実、夫のマサヤには『衝動』(21)の佐久間
祥朗。2人も花瀬と同様に撮影1ヶ月前から現地入り、沖縄・コザで実際に体感した生活感溢れるリアルな演技を披露している。
監督は、長編デビュー作『アイムクレイジー』(19)で、第 22 回富川国際ファンタスティック映画祭 NETPAC 賞(最優秀アジア映画賞)に輝いた工藤将亮。長編3 作目のオリジナル作品『遠いところ』は、4 年に渡り沖縄で取材を重ね脚本を執筆、全編沖縄での撮影を敢行した。
日本公開に先立ち、第 56 回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門に日本映画として 10 年ぶりに正式出品、約 8 分間のスタンディング・オベーションを受けた他、数々の映画祭で高く評価されている。
映画『遠いところ』ストーリーは?
沖縄県・コザ。17 歳のアオイは、夫のマサヤと幼い息子の健吾(ケンゴ)と3人で暮らし。
おばぁに健吾を預け、生活のため友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働くアオイだったが、建築現場で働いていた夫のマサヤは不満を漏らし仕事を辞め、アオイの収入だけの生活は益々苦しくなっていく。
マサヤは新たな仕事を探そうともせず、いつしかアオイへ暴力を振るうようになっていた。
そんな中、キャバクラにガサ入れが入り、アオイは店で働けなくなる。
悪いことは重なり、マサヤが僅かな貯金を持ち出し、姿を消してしまう。仕方なく義母の由紀恵(ユキエ)の家で暮らし始め、昼間の仕事を探すアオイだったがうまくいかず、さらにマサヤが暴力事件を起こし逮捕されたと連絡が入り、多額の被害者への示談金が必要になる。
切羽詰まったアオイは、キャバクラの店長からある仕事の誘いを受ける―
公式HPより
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