深田晃司監督 高校生に映画制作ワークショップ

シネマコラム

超有料級のワークショップとは?

『淵に立つ』『本気のしるし』などが国内外で高く評価されている、日本を代表する映画監督・深田晃司監督が、「メ~テレシネマ映画祭2022」(5月20日~26日@伏見ミリオン座)の企画として行われた「映画ワークショップ」に登壇した。

これは、2022年4月に開局60周年を迎えたメ~テレ(名古屋テレビ放送)が、“地元の人々により映画に親しんでもらおう”と企画したもので、「メ~テレシネマ映画祭presents ティーン映画ワークショップ」と題して、ゴールデンウィーク中の3日間に渡って無料で開催された。

5月4日、5日に行われたのは、高校生対象の「映画制作ワークショップ」。深田晃司監督の映画制作に触れられた学生たちが羨ましくて仕方ない充実の2日間でした。

3日の「映画鑑賞セミナー」では司会を担当させてもらいましたが、4日、5日は、私自身がどうしても深田監督のワークショップの様子を見たかったので、取材という名の見学をさせてもらいました。仕事の合間を縫っての取材のためすべてを見ることはできませんでしたが、濃密な2日間の模様をできる限りレポートします。

これが無料なんてあり得ない!という内容でした。

☆2022年秋、深田晃司監督の最新作が公開に!

木村文乃さん主演、映画LOVE LIFE

映画制作7ステップ

5月4日、5日にメ~テレ社内で行われた「映画制作ワークショップ」。日本を代表する映画監督に直接指導を仰げるとあって、2日間で合計20人の映画好き高校生が集まった。中には“映画甲子園に参加したことがある”、“すでに役者経験がある”といった、将来、映画監督・役者志望の意欲的な学生の姿も。

朝9時から夕方6時まで、終日行われた「映画制作ワークショップ」の大まかな流れは以下の通り。

(各日、学生たちがA~Cの3班に分けられ、脚本制作・芝居・撮影、すべてを体験する)

1.脚本制作① (シチュエーション設定・ロケハン)

2.脚本制作② (セリフ・構成作り)

3.脚本制作③ (芝居リハ)

4.撮影準備・発表

5.芝居・撮影 (A班芝居・B班撮影、B班芝居・C班撮影、C班芝居・A班撮影)

6.深田監督撮影

7.上映

これを1日で?!と驚きますよね!

※適宜休憩・換気時間を設けています。

私が特に楽しみにしていたのは、高校生の作った脚本を深田監督が撮影したらどうなるのか、ということ。世界を魅了する深田監督の演出を間近で見られるのはもちろん、深田監督の目線で描くと、脚本の色彩はどのように変わるのか。これは参加した学生の皆さんは刺激になること間違いなしです。

75文字演劇

何より興味深かったのは、今回の映画制作のルール。

「75文字演劇」

・1セリフ5文字×15セリフ

・テーマ「別れ」

・必ず1人以上、外にはける

・1シーン1カット

・タイトルをつける

脚本から撮影まで、すべてを1日で終わらせるため“ある程度制限があった方が脚本作りなどに迷わなくていい”という意図があるそうですが、“1セリフ5文字”というのが憎い。

“ありがとう”“さようなら”“げんきでね”“がんばって”など、5文字で表現できる感情・シチュエーションは結構たくさんあるし、自分の中から効果的な5文字の言葉を絞り出すのも楽しそうだ。

(他のワークショップでは、4文字、という場合もあると深田監督が教えてくれた。4文字はさらに語彙力と構成力が必要になりそう)

そして、「別れ」というテーマ。ストレートに“卒業”を描く班もあれば、え?どういうこと?と、すぐには理解できない意外な「別れ」を表現した班もあり、5月3日の「映画鑑賞セミナー」(vol.209参照)で深田監督が解説してくれた“フィードバック”について改めて考えることができた。

撮影場所として使えるのは、メ~テレ社内の3カ所。1階ロビーおよび多目的ホール「ウルフィモフモフパラダイス」と6階カフェテリアのテラス、7階屋上テラス。それぞれの脚本に合う場所をロケハンで選ぶ。

7階と6階の高低差を利用した1日目のB班、また、一番主張が強く使いづらそうな「ウルフィモフモフパラダイス」をうまく活用した2日目のA班のアイデアが印象に残った。あとで詳しく書くが、これらの班の脚本をもとに深田監督が撮影した作品が圧倒的すぎて、ため息が。短いながら深田監督作品特有の不穏で胸をざわつかせる雰囲気。さすがとしか言いようがなかった。

“かみひこうき”が飛んだなら

A~Cの各班が考えたタイトルは以下の通り。

〈1日目〉

A班 「ハイビスカス」

B班 「かみひこうき」

C班 「桜の下で」

〈2日目〉

A班 「花嫁」   

G班 「秒針が離れるとき」 

(偶然全員グリーンの服だったためG班)

C班 「余命宣告 残された命」

(自分がナレーションの仕事で中抜けし、撮影風景を見られていないものもあるため、一部を紹介します)

B班 「かみひこうき」

前述の7階と6階の高低差を利用した作品。ざっくりとしたストーリーは…

「ひとり悩みを抱える青年のもとに、紙飛行機がふわりと落ちてくる。開いてみると“良い天気だね”と他愛もない内容。また紙飛行機が落ちてくる。見上げると隣の病院の屋上?に少女の姿が。次第に紙飛行機の内容は励ましの言葉に変わるが、青年は素直に受け入れられず、紙飛行機を丸めて投げ返してしまう。そして再び落ちてきた紙飛行機を開いた青年は顔色を変える。そこには“別れ”のメッセージが。青年は衝動的に少女のもとへ駆け出す。しかし屋上には少女の姿は無かった・・・。青年は自分がもといたベンチに目をやる。そこにあの時の自分と同じようにうなだれている若い男性をみつけ、青年は紙飛行機を飛ばすのだった。」

皆さんはこのストーリーをみて、どのように撮影したらよいか想像できますか?

学生たちを悩ませたのは、1シーン1カットの難しさ。

“紙飛行機はちょうどいい位置に落ちてくれるか?”

“高低差をどのように画角に収めるか?”

“紙飛行機に書かれた文字にカメラが寄るタイミングは?”

“青年が駆け出すシーンでカメラは屋上まで付いていく?6階で待機して撮影する?”

脚本の上では生き生きと動いていた登場人物も、実際にロケ現場に立ちカメラを覗いてみると、想像通りにはいかない。また、今回のワークショップでは、物語を作成し、芝居をするのはB班、監督やカメラマンはA班という若干複雑な構造。それぞれの班の意見を聴きつつ、共によりよい良いゴールを目指すためディスカッションする学生たちを見て、コミュニケーション能力もかなり問われるなと感じた。

基本的に深田監督も周りのスタッフも手助けはしない。機材の使い方などはもちろんレクチャーするが、学生たちのやり取りを見守り、煮詰まっていて困難そうだと判断した場合にのみヒントを与えていた。

限られた時間の中で学生たちが出した答えは興味深かった。“紙飛行機が理想の位置に落ちて来なかった場合に備えて花壇の中に潜めておく”“紙飛行機に書かれた文字にカメラが寄っている間に場面転換する”“セリフはなし”などなど。

“セリフなし”は75文字ルールを完全に無視しているけど、大胆で面白い。はじめはルール無視に異論を唱えたくなったが、これはこれで私にはない柔軟な発想。もしかしたら、私が高校生のようなピュアなものの見方が出来なくなっているだけかもしれない、と思い直した。何より、このあと撮影した深田監督のサイレント作品は圧巻で、すべてが吹きとんだ。

青空さえも不安にさせる“深田ワールド”

高校生たちの脚本を、深田監督はどのように表現したのか?

あとで監督に伺ったら「瞬発力が鍛えられて良かった」と仰っていた。高校生が書いた、よく言えばフレッシュな、別の言い方をすれば粗削りな脚本を、その場でプロの作品に仕上げなければならないのは、世界基準の演出力を持ってしても、刺激的な時間だったのかもしれない。

深田監督のこれまでの作品をご覧になったことがある人ならわかると思うが、深田作品は、観る人を不安にさせる鬱々とした影が潜む映像表現が特徴的だ。

このワークショップが行われた日はGW中でも一番の天気で、まさに雲一つない気持ちの良い青空…なのにだ、“絶対この後何か不穏なことが起こるでしょ!”と思わせる空気感が映像から滲み出る。むしろ、青空が青すぎて余計に不安を煽るほど。

深田監督は撮影の前に、動きやセリフについてしっかりと演技指導(演出)を行った。このB班の「かみひこうき」だけでなく、すべての作品で学生たちが一瞬で役者になった。上映会のときに、演技について深田監督から「プロの役者でもありがちだが、つい言葉を詰め込み過ぎる」という話があった。例えば「いままで、ありがとう」というより、「ありがとう…いままで」の方が、実は私たちの普段の間合いに近いのだと。

学生たちの作品と深田演出で一番違ったのは、青年が駆け出すシーン。学生たちは6階でカメラを構えて青年がバルコニーから顔をだすのを待ったが、深田監督は、青年の背中を追って7階まで一緒に走ってついていった。これが秀逸で、必死に階段を駆け上がる青年の背中、揺れる画面、グルグル回る螺旋階段。その先に待ち受けるのは光か影か、観客の想像力を掻き立て、道連れにする演出に心の中で拍手喝采した。

そして、やはりプロの映像には奥行きがある。映画は二次元ではなく三次元。登場人物の配置、カメラ位置の違いなどで、同じストーリーがとたんに芸術へと変わる瞬間を見た。

改めて振り返り、1日でこんなに濃厚で面白い体験はなかなかできないのではないかと思う。GWに「映画のワークショップに行ってみよう!」と行動を起こした高校生たちの大勝利。映画監督、役者を目指す学生、ちょっと興味があるから来てみたという学生。この経験が彼らのこれからのスパイスになったことは間違いない。

珠玉の映画をふたたびスクリーンで!

☆「メ~テレシネマ映画祭2022  

日時:5月20日(金)~5月26日(木)

会場:伏見ミリオン座(名古屋市中区)

上映作品:「あん」(2015) 「淵に立つ」(2016) 「勝手にふるえてろ」(2017) 「寝ても覚めても」(2018)

「愛がなんだ」(2019) 「his」 「ホテルローヤル」 「本気のしるし(TVドラマ再編集劇場版)」(2020)

※入場料 各1,300円

先行上映:(not) HEROINE movies第1弾作品 わたし達はおとな(6月10日全国公開)

☆メ~テレシネマpresents 「(not) HEROINE movies セレクション

・東京5月27日~ 6月2日   新宿武蔵野館

・大阪 5月20日~ 5月26日  テアトル梅田

上映作品:「勝手にふるえてろ」「寝ても覚めても」「愛がなんだ」「本気のしるし(TVドラマ再編集劇場版)」

先行上映:わたし達はおとな

(not) HEROINE movies」(ノットヒロインムービーズ)とは・・・?

メ~テレと制作会社ダブがタッグを組み、“へたくそだけど私らしく生きる”等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズ。次世代を担う映画監督と俳優たちを組み合わせ、それぞれの感覚と才能を思う存分発揮できる場を生み出し、排出するプロジェクト。何ドンもされない。胸キュンもしない。恋とか愛とか生きるとか自意識とか、考えすぎてこんがらがって。それでももがいて生きている“ヒロイン”になりきれない“ヒロイン”たちの物語を描く。

アンバサダー松井玲奈さんに聴きました

「メ~テレシネマ映画祭2022」 のアンバサダーに愛知県出身の松井玲奈さんが就任。

映画祭の魅力を松井さんに伺っていきました。

メ~テレの朝の情報番組「ドデスカ!」やメ~テレシネマの公式YouTubeチャンネルで数回にわたってお伝えします。

(松井さんは、(not) HEROINE moviesの第2弾作品「よだかの片思いに主演)

アンバサダー松井玲奈が語る!「メ~テレシネマ映画祭2022」の魅力

 

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